他人の星

déraciné

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第14話

<前回までのあらすじ> 夏祭りの夜、偶然に出会ったお城の姫と村娘は、お互いの姿が瓜二つなのに驚きますが、村娘の提案で、二人は祭りの間入れかわることにしますが、姫は、村娘によって、古井戸の底に突き落とされてしまいます。 しかし、古井戸の底には…

気持ち

どうせ 死ぬのに 死にたくなる どうせ 死ぬのに 生きたくなる どうせ 死ぬのに

inner childー内なる子

お日さまは ぼくに 早く動けと せかすから きらいだ と言い 雲は ぼくに 鉛になれと 呪いをかけるから きらいだ と言い まして 雨は ぼくのことを 憎んでいる だから あんなに 冷たいんだ ぼくだって 大嫌いだ と言い 窓すら 見ずに 背を向けて 座り込む こ…

「わたし」は何からできているのかー映画『ゴーン・ベイビー・ゴーン』から(4)

「社会の子」 Here I am walking naked through the world Taking up space,society's child Make room for me,make room for me,make room for me 「裸で世界を歩いてる ここにいるんだ、僕だって、社会の子どもだよ 場所をあけてよ、居場所がほしいんだ、…

わたしは何からできているのか?―映画『ゴーン・ベイビー・ゴーン』から(3)

「愛情」って何? どうしても、避けることのできない問いだと思います。 なぜなら、この映画は、母親のへリーンから、4歳の少女アマンダを救出し、愛情をもって育てようとした警部ドイルによって、話の本筋が動いているからです。 自分の娘を殺された過去の…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第13話

「姫よ、いったいこれは、どういうことなのだ?」 王は、やっと口を開いて、自分たちの娘であるはずの姫にたずねました。 お后の方は、あまりのおそろしさにすっかり青ざめて、口もきけそうにありませんでした。 本当の姫は、強く訴えかけるように、瞳を見開…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第12話

こうして姫は、たったひとり、しんと静まりかえった暗い城の底を、自らの記憶にたずねながら、さまよい歩きました。 そして、いくつもの小径と小部屋を通りすぎ、ようやく、王とお后がいるはずの広間の真下にある空間までたどりつきました。 あとは、広間の…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第11話

<前回までのあらすじ> むかしむかし、ある国で同じ日に生まれた城の姫と村娘は、夏祭りの夜に、偶然出会い、お互いの顔が瓜二つなのに驚きます。 村娘の提案で、姫と村娘は、お祭りの間だけ入れ代わることにしますが、着替えるために誘われるまま入った森…

「わたし」は何からできているのか?ー映画『ゴーン・ベイビー・ゴーン』から(2)

母親の背後にあるもの それでは、なぜ、へリーンは、“ちゃんと”母親役割を果たすことができないでいるのでしょうか。 たしかに、子どもを育てるということは、一大難事業であって、「自分」というよりは、自分の中の「親」役割を優先的に考えなければならな…

「わたし」は何からできているのか? ー映画『ゴーン・ベイビー・ゴーン』から(1)

“人間を形づくるのは 自分以外の何かだ 住む街 隣人たち 家族…… 肉体が 魂を包み それを街が包み込む” 映画『ゴーン・ベイビー・ゴーン』2007年 アメリカ 映画冒頭の、モノローグです。 何年か前に、DVDを借りて見て、印象に残った言葉だったので、それだけを…

「わたし」は何からできているのか?

いまの自分をつくっているものが、何かと考えたときに、どうしても無視できないのが、「親」の存在、ではないでしょうか。 私の場合、自分の親が、どういう位置にあったのかを知る材料は、成長過程から接してきた、他人の親の存在でした。 私にとって、「他…

流砂

何か とてつもなく 真実ないのちが この世を見たら どう見えるだろう 人は きらきら光って 風に舞う 砂粒にしか 見えないかもしれない 人のつくるものは 砂上の楼閣 根も なく 翼も なく 雨に 風に さらさら 崩れ いずれ あとかたもなく 消える 生きている …

故郷喪失

誰も 知らない 何も わからない むかし たしかに あったらしい ということ 以外 には 何億光年 はるか 遠く いま とどく便りは 過去の光 何が 本当なのか 本当など 本当に あるのか どうか ぽっかりあいた 空虚な穴を じっとみつめる 妄執 「わたし」 という…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第10話

やがて、姫の結婚話は、村人たちのうわさにのぼるところとなり、そのうわさは、さまざまな鳥たちのさえずりや、野の動物たちのささやきをとおして、森の古井戸の底までも伝わることとなりました。 「大変だわ。どうしましょう。」 その話を聞いて、姫は、う…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第9話

さて、お城に暮らす娘にも、井戸の底に生きる姫にも、等しく、三年の月日が流れました。 お城は、姫と、となりの国の、いちばん末の王子との縁談で持ちきりでした。 王とお后は、十八になった姫にふさわしいかどうかだけでなく、自分たちがそうであったよう…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第8話

<前回までのあらすじ> むかしむかし、ある国で、同じ日に生まれたお城の姫と、貧しい村娘は、ともに十五歳になった夏祭りの夜、偶然に出会い、お互いの顔が瓜二つなのに驚きます。 村娘は、姫がもっと自由に夏祭りを見たがっている気持ちを知り、ほんの一…

『カッコーの巣の上で』 (3)

自由と「死」 最終的に、マクマーフィは、病院(特に婦長)にとって危険分子と判断され、ロボトミー手術を受けさせられてしまいます。 そして、聴覚障害者を装っていた最初から、マクマーフィともっとも親密な関係にあったといえるチーフが、マクマーフィを…

『カッコーの巣の上で』 (2)

「自覚あるさびしがりや」 劇中を通して、マクマーフィは、何かと他人にちょっかいを出したり、頼まれなくても世話を焼いたりします。 無視ではなく、共感か、さもなくば反発か、つまり、人間関係から何らかの反応と刺激を欲する彼は、大多数の人間と同様、“…

『カッコーの巣の上で』 (1)

いわずもがなの名作ですが、最近、ようやく、DVDで初めて見ました。 すでにあらすじを知っていたので、この映画は、少し、気持ちに余裕があるときか、あるいは、映画という別の現実に没頭したいときに限られるな、と思っていたからです。 今回、後者の理由に…

呪われた夢

風が 吹いている 命を 吹き込み 魂を込めた 銀色に 光る 美しい 飛行機が 暗く 不吉な 稲妻はしる 雲の峰へと 向かっていくのを やがて 嵐と 神鳴りが それを めちゃくちゃに 破壊し尽くしてしまうのを 知っていても どうすることも できない ただ 黙って 立…

祈り

「天に おわします 神よ どうか 罪を お許しください この上 厳しい試練などに 遭わせられませんよう どうぞ お守りください この 弱きものを この 小さきものを お救いくださいますよう どうか 憐れんでくださいますよう」 両掌を合わせ 祈る姿は 美しい だ…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第7話

さて、一方、古井戸に突き落とされた姫は、どうなってしまったのでしょうか。 死んでしまったのでしょうか。 いいえ、生きていました。 実は、古井戸の底には、先客がいたのです。 それは、一羽のオオワシでした。 姫は、そのオオワシの背に受けとめられたこ…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第6話

それから、姫になった娘は、急いで、王とお后のもとへ、かけていきました。 王とお后は、すでに、姫がいないことに気づき、あわてて家来たちに四方八方探させていました。 そこへ戻ったのですから、姫になった娘は、王から、ひどく叱られました。 ですが、い…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第5話

<前回までのあらすじ> むかしむかし、ある国で、同じ日に、お城で一人のお姫さまが、貧しい村で一人の娘が生まれました。ともに十五歳になった夏祭りの日、村娘が、姫の腕輪を盗んだことがきっかけで、二人ははじめて出会い、お互いの顔がそっくりなのに驚…

「大人とは、裏切られた青年の姿である。」(4)

「…だから、向うの気が進まないのに、いくら私が汚辱を感ずるようなことがあっても、決して助力は頼めないのです。……或場合にはたった一人ぼっちになって、淋しい心持がするのです。」 夏目漱石『私の個人主義』 相手にその気はないのに、自分と一緒に行動す…

「大人とは、裏切られた青年の姿である。」(3)

怒りや憎しみ、あるいは、悲しみや孤独などの、「ネガティブ」な感情を、善くないと決めつけ、たとえば、人を恨んだり、憎んだりしてはいけない、といわれることもありますが、本当にそうでしょうか。 怒りも憎しみもなしに、かつて、自分が相手か、相手が自…

「大人とは、裏切られた青年の姿である。」(2)

太宰の言葉に、話を戻したいと思います。 彼は、故郷の津軽で、もとは自分の家の使用人だった「T君」と再会し、子どもの頃のように、親しみのあかしとして、その先の道中へ「一緒に行かないか」と誘おうとするのですが、遠慮して、言えませんでした。 この「…

「大人とは、裏切られた青年の姿である。」(1)

「大人というものは侘しいものだ。愛し合っていても、用心して、他人行儀を守らなければならぬ。なぜ、用心深くしなければならぬのだろう。その答は、なんでもない。見事に裏切られて、赤恥をかいた事が多すぎるからである。人は、あてにならない、という発…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第4話

さて、姫の方は、相変わらず、どうしたものかと考えながら、娘を見ていました。 腕輪も首飾りも、この娘に与えた方がよいのではないかと、思いはじめていたのです。 娘は、本当に、見れば見るほど、自分とそっくりでしたが、その顔には、自分にないものが、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第3話

自分と同じ顔をした姫が、思案に暮れたっきり、何も言ってこないので、娘は、いらだちを感じていました。 しかし、そのとき、ふいにまた、さっきのあの声が聞こえてきたのです。 「……おまえの、その顔。その顔に、隠そうとしても隠せない、高貴な血。だから…