他人の星

déraciné

2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

私が 殺してしまった いのち

インコ、金魚、にわとり(ひよこ)、うさぎ、犬。 子どもの頃から、家で飼った生きものです。 インコは、つがいで飼っていましたが、ある日、二匹で巣箱に入ったっきり、出てこなくなりました。 「もしかしたら、卵を温めているのかもしれないよ」と母が言い…

遺言

むかし むかし 自分の 食いぶち かせげないやつは 長い 長い 行列 つくって 処刑 されたそうな いまじゃ サイゴの 情け かけてくれる 執行人すら いないときてる てめえの しまつは てめえで つけろ とさ どうせ いずれは 死刑と 話が 決まってる せめて お…

憤懣

家は 生きてる人間 入れとく 墓だって 言った人がいる それなら さしずめ ここは かりそめの 共同墓地 で 誰が 誰か 特定もされず 一緒くたに 穴に 放り込まれて カルシウムの からから 鳴る音も 誰が 誰か 分かりは しない ついでに いえば 本当は 本当のこ…

『バットマン ダークナイト』(6)

ジョーカーの「呪い」 「面白い言葉ね。札つきなら、かえって安全でいいじゃないの。鈴を首にさげている子猫みたいで可愛らしいくらい。札のついていない不良が、こわいんです」 「私、不良が好きなの。それも、札つきの不良が、すきなの。そうして私も、札…

『バットマン ダークナイト』(5)

「たった一人の私」? さて、ジョーカーは、ゴッサム・シティの市民にゲームを強要し、従いたくない者は、街を出て行くよう、促します。 橋には爆弾が仕掛けられており、船で逃げるより他に方法はなく、結果的に、市民たちは、まんまと、ジョーカーの狙いどお…

『バットマン ダークナイト』(4)

“正義感”のあやうさ 「ジョーカー」は、口の裂けた自分の素顔に道化師のメイクをし、ハービー・デントは、素顔そのものが“トゥーフェイス”、二重性をもつのに対して、バットマンは、仮面をかぶり、素顔を隠しています。 隠す、ということは、“バットマン”にす…

『バットマン ダークナイト』(3)

仮面が仮面でなくなるとき 人は、日常生活という舞台の上で、あたかも俳優が演技をするかのように、何かの役割を演じている、と言ったのは、社会学者ゴフマンです。 なぜ、演技をするかといえば、それは、人間が、他人からよく見られたいという欲求をもって…

『バットマン ダークナイト』(2)

ジョーカーの“物語” 映画を見ている間、私は、「ジョーカー」の中に、一度入ったら出られなくなるような、深い落とし穴のような、けれども、とてつもなく魅力的な、一つの世界を見ていました。 彼は、素顔の上に、道化師のメイクをほどこしていますが、口が…

『バットマン ダークナイト』(1)

境界を越えてくるもの 私は、“ピエロ”を見ると、頭の中で、警戒を促すような音が鳴り響くのを感じます。 どうしてでしょうか。 人間が、たいした理由もなく、“現実の世界”だと取り決めた境界。 その向こうから、今まで一度も見たことがないようでいて、ひど…

コーヒー・トリップ

実に 素晴らしい飲みものだ この 色がいい 何と 表現したら いいのだろう 深くて 濃い カップに 注ぐと 底が見えない この 香りがいい 火を使って 豆を煎る なんて 人智の 極みだ この 苦みがいい 苦みを うまみと 味わえるなんて 奇跡の 瞬間だ 人生じゃ ま…

ワイナリー

「そりゃ むかしは 大酒も 飲んださ」 時計うさぎは 赤い眼で 言う 「ぼくは 下っ端で 安酒 しか 飲めなかったけど ほんとは 広くて 大きい ぶどう畑 が 欲しかった ぶどうは 欲しいだけ きみに あげる もっていって いいよ なんて 太っ腹なこと 二つも 三つ…

パラダイス ロスト

ダディー お陽さまは いつも ずっと おまえを見てる だから 決して 恥じぬよう まっすぐ 正しく 生きておいき と おしえたね けれども ここに 陽の光は ない マミー お月さまは いつも ずっと おまえを見ているよ だから 決して 恥じぬよう 強く 優しく 生き…

帰ってきたウルトラマン『悪魔と天使の間に……』(4)

物が散乱し、誰もいない、静まりかえった不気味な病院を、伊吹は、輝夫少年をさがして走ります。 そしてついに、霊安室で、ランドセルに似せた、怪しげな機械を操る輝夫をみつけ、彼の攻撃をかわし、撃ち殺します。 輝夫は、あどけない少年の顔のまま、撃た…

帰ってきたウルトラマン『悪魔と天使の間に……』(3)

危険な“善意” 一方、病院では、輝夫に付きそう美奈子が、輝夫のベッドの上に、紙の花をちりばめて、眠っています。 彼女の、“漂白されたような善良さ”を感じさせる場面です。 おそらく彼女は、他人、とくに、“弱者”には優しく親切にするよう、伊吹から教えら…

帰ってきたウルトラマン『悪魔と天使の間に……』(2)

「人間」と「親」の間で…… MATの隊長であると同時に、父親でもある伊吹は、口のきけない少年と「友だちになってやろうとつとめている」こと、それを娘の優しさや善意だと受けとめ、親として、踏みにじることはできない、と言います。 「何ごとにも汚されない…

帰ってきたウルトラマン『悪魔と天使の間に……』(1)

“罪な可愛さ” 他者や、ものに対する“ほめ言葉”として使われるものに、「かわいい」という言葉があります。 言われた側が、どう感じるかはともかく、この言葉は、「かわいい」、と言った側にも、少なくはない“快感”をもたらすところが、不思議だと思います。 …

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第18話(最終話)

愛する夫の死を知った娘の嘆きは、あまりに激しいものでした。 そして、夫の死んだ泉に、自分も身を投げて、死のうとしました。 すると、そのときです。 とつぜん、あの魔女が現れ、泉に落ちた娘をすくいあげました。 魔女は、気を失った娘が目を覚ますと、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第17話

一方、王子と娘は、王子の傷が癒えるとすぐに、遠くの国へと旅立ちました。 そして、王子と娘のことを誰も知らない地で、ささやかな結婚式を挙げ、ふたりはふつうの村人として、幸せな日々を送りました。 それから二年ばかりがすぎたころ、それはそれは美し…

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第16話

王子は、言いました。 「どうして、それを、もっと早く言ってくれなかった。そなたは、わたしのために、自分の一生分の喜びと幸せと満足を投げだすことができなかったことを、悔いているのであろう?……しかし、それは、ひとおもいに命を投げだすことよりも、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第15話

そして、三日後の晩、運命の雨が降りだしました。 王子は、人々が寝静まるの深夜を待って、そっと城の庭へ出ると、湖のほとりで剣を抜き、自分の左腕の内側を、深く、えぐるように切り裂きました。 すると、おびただしい量の血が噴き出しましたが、雨が、み…

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第14話

《前回までのあらすじ》 お城の王子と貧しい村娘は、偶然の出会いから恋に落ちますが、王子の将来を案じた王とお后によって、王子は、塔の上の部屋に閉じ込められてしまいます。 自由を奪われた王子は死病にかかり、村娘は、自分の一生分の喜びと幸せと満足…

『バットマン ビギンズ』(4)

「ヒーロー」たる所以 いずれにせよ、映画の中の人物に、本気で共感したり、反発したりできるということは、人物描写が、それだけよくできているからなのだと思います。 そして、バットマンは、決して孤独ではありません。 たとえば、ブルースから、自分のこ…

『バットマン ビギンズ』(3)

「恐れる男」と「恐れない女」―ブルースとレイチェル 劇中の、ブルースとレイチェルの関係を見ていて、何となく、思い出したものがあります。 夏目漱石の、『彼岸過迄』という作品です。 「僕は自分と千代子を比較する毎に、必ず恐れない女と恐れる男という…

『バットマン ビギンズ』(2)

「どうして人は落ちるのか?」 以下、ネタバレになりますので、ご注意ください……。 バットマンこと、ブルース・ウェインの恐怖の対象は、コウモリであり、彼のコウモリ恐怖症は、少年の日、深い穴に落ち、そこでコウモリの群れに襲われたことに由来します。 …

『バットマン ビギンズ』(1)

“クリストファー・ノーラン” レンタルDVDで、映画でも観たいな。でも、何を借りよう? よく、迷います。 レンタルビデオやさんで、ジャンルの棚の間を、行ったり来たり、迷いすぎて、足が棒になって、くたくたに疲れて、結局、何も借りなかった、なんていうこ…

サーカス

夜の とばりが落ちて しはいにん が 眠りについたら 泣いてもいいし 叫んでもいい 南国の鳥は 笑うように 鳴くけれど そんな声を どこで どれだけ 練習して ものにしたのだろう ぼくは 明日 もう明日だという日に 猶予なく 容赦なく ジャングル という名の …

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第13話

ですが、そんなこととはいっさいかかわりなく、幼いころから優しく賢かった王子は、お城に帰ってくると、たちまちのうちに、多くの家来たちを、とりこにしてしまいました。 王やお后に近い座にいる者たちは、隣国の強さをよく知っていましたから、次期王のも…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第12話

さて、死んだはずの王子が、世にも美しくりりしい若者の姿となって戻ってきたために、お城は、上を下への大騒ぎになりました。 当然、王子は死んだものとして、国のまつりごとがすすめられていたのですから、たまったものではなかったのです。 王子以外に子…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第11話

すると、王子の瞳に輝きが戻り、傍らにいる娘に気がついて、口を開きました。 「………おお、そなたは、わたしの美しい人ではないか。」 娘は、涙を流しながら、言いました。 「王子さま。わたしが、おわかりになるのですか。あなたさまは、十年の歳月を経て、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第10話

《前回までのあらすじ》 むかし、ある国で、十五になったばかりの王子と、貧しい村娘が出会い、恋に落ちるのですが、王子の行く末を案じた王とお后によって、王子は、無理矢理高い塔の上の部屋に、閉じ込められてしまいます。 村娘にも会えないばかりか、塔…