他人の星

déraciné

2022-01-01から1年間の記事一覧

映画『はちどり』(3)

この時期になると、いつも思うことがある。 どうして、クリスマスには、ごちそうやケーキを食べなくちゃならないんだろう? どうして、おおみそかには、年越しそばを食べなくちゃならないんだろう? どうして、お正月には、おもちやらおせち料理を食べなくち…

映画『はちどり』(2)

この世に、平等な人間関係など、存在しないと思う。 程度の差こそあっても、どちらかが組み敷かれ、どちらかが組み敷いている。 もし、“私たちの関係は、平等だ”、と思っている人がいるのなら、その人は、ほぼ確実に、「相手を組み敷いている」。 なぜなら、…

映画『はちどり』(1)

七面倒臭い人生を生きてきた人は、七面倒臭い性格になるのか? 単純明快な人生を生きてきた人は、単純明快な性格になるのか? そう、かもしれない。 けれど、そんなに簡単でもないのかもしれない。 七面倒臭い人生を生きてきたのに、わりと無頓着な性格にな…

キレイハキタナイ キタナイハキレイ

目を 伏せて ずっと 下を 向いて 歩いて いたら いつの間にか 季節は うつり イチョウは 黄色に メタセコイアは 赤茶色に ツタは 紅色に 染まって いた 咲き つくした コスモスは 背丈が 伸びすぎて 道に倒れ 小さい 真っ赤な花を たくさんつけた キクは み…

僕たちの 大失敗

冬のにおいが 鼻を かすめると みんな 家路を 急ぎたくなる らしい とっぷり 暮れた 闇は 濃くなるばかりで ああ 暗くて 寒いのは 死んで 墓に入るまで 勘弁 してくれよ 昼光色の 明るい あたたかい 我が家へ はやく はやく 帰ろう それは いっこうに かまわ…

劇中劇

誰かの 過去が 流れる 映画の シーン モノクローム の モノローグ セピア色 って 名前が素敵 と思ったら 由来は イカスミだと 知って 何だか 妙にかなしくて 笑った日 子どもの とき うちあげられた 落下傘花火を 必死で 追いかけた けれど わたしは決して …

涙を ながしながら みあげた 空 「いったい 何が そんなに 欲しい?」と きいてくる 澄みわたる 青の かなしみと 冷静 情熱の 赤も かなわない 熱情の 青い炎に 目が 熱く 痛む うつむきながら 時も忘れて 歩いて いると 太陽は 今日最期の光を 矢にして 投…

「無神経」

「食べなくて いい って 思っちゃうんだ」 と 彼女は 言った もう 私を 攻撃しないで と 笑顔で 守る 細い からだ は 秋の陽に 透ける 蜘蛛の巣 みたいに 消えそうで わたしは その手を とりたく なった けれども それは 彼女の もの ではなくて わたしの 淋…

映画『メランコリア』(5)

「たいていの場合、動物は悲しそうよ」と彼女は言いつづけた。 「歯が痛いとか、お金をなくしたとかいうためではなくて、人生全体が、いっさいのものがどうであるかを、しばしのあいだ感じたために、人間がひどく悲しんでいる場合、人間は真実悲しいのよ。そ…

「気持ち 悪い」

ありがとう ありがとう って言うたびに いつも どこかが むずむずする その ことばを ならった日々を 思い出す からだ 「“ありがとう”は?」 ママが 言った 「お友だち」と そのママの前で もらったのが クッキーだったか チョコレートだったか キャンディー…

映画『メランコリア』(4)

クレアとジャスティン さて、幸福になれるチャンスも、夫も職も、何もかもなくした妹のジャスティンは、その後、うつ病の症状でいうところの、昏迷状態に陥ります。 昏迷とは、考えること、感じること、何かをしよう・したいという意志や意欲、ほぼすべての…

双頭の 蛇 

何もかも 気に入らない ナニモカモ キニイラナイ 何だって? 何かが おまえの お気に召すようになるとでも? 何もかも 思いどおりにならぬ ナニモカモ オモイドオリニナラヌ 何だって? 何かが おまえの 思いどおりになるとでも? 無数の あざけり笑いが 不…

映画『メランコリア』(3)

ママとパパが おまえをだめにした そのつもりはなかったんだろうが そうなったのさ 彼らは 自分たちの失敗を たっぷりおまえにつめこんだ おまえのためによかれと よけいなものまで追加して でも 彼らだって だめにされたんだ 古くさい帽子と コートを着た愚…

映画『メランコリア』(2)

「結婚しちゃいけない!まだ間に合う、考え直すんだ、二人とも。いいことなんて何も待ってないぞ。後悔とにくしみと醜聞と、それからおそろしい性格の子供が二人、それだけさ!」 デルモア・シュウォーツ『夢で責任が始まる』 “しあわせ”、と聞いて、多くの…

映画『メランコリア』(1)

“私の生まれた日は滅び失せよ。” —『ヨブ記』 「新しい朝が来た、希望の朝だ」…… 目覚めた瞬間から、さあ、大変。 はるか彼方まで、ずらりと並んだ、数えきれないほどたくさんのハードル。 今夜の眠りにたどりつくまで、いくつ、ちゃんと飛べるかな? まずは…

真夏の 葬列

真夏の 日盛りに 葬列を 見た 標本のように 完璧な セミの幼虫が 地を這っている と 思ったら それは 黒々とした 小さい蟻が 無数にたかって 少しずつ 少しずつ すすんでいく そのさまであって きみの いのちは もう ないのだった 大事な 大事な 食糧を 蟻た…

『シン・ウルトラマン』(4)

“裁定者 ゾーフィ” さて、『シン・ウルトラマン』では、物語を結末へ導く存在として、テレビ版でのウルトラ兄弟の長兄“ゾフィー”が、“ゾーフィ”、として登場します。 “ゾーフィ”は、狡猾なメフィラス星人でさえ、「ヤバいやつが来た」と、ウルトラマンとの戦…

信号機と ヒグラシと 同調圧力

絶対 必要ない ところに ついてる 信号機って あれ どういうわけなんだろうって そこに 来るたび 思い出したように 思う まるで 自然に 朽ち果てて 消滅するはずの いらない 配線の 一部が残ってる みたいな あるいは 廃墟の 一部 みたいな でもね みんな 赤…

『シン・ウルトラマン』(3)

「ではなぜ我我は極寒の天にも、まさに溺れんとする幼児を見る時、進んで水に入るのであるか?救うことを快とするからである。では水に入る不快を避け幼児を救う快を取るのは何の尺度に依ったのであろう?より大きい快を選んだのである。」 芥川龍之介『侏儒…

「こんにちは」と「さようなら」のあいだ

もし 「こんにちは」 と 「さようなら」の間が もっと 短かったなら もっと 短くて はかないものだと ちゃんと わかって いたなら きみに もっと やさしく できたの かな ぼくが しているのは 寿命 とか 余命 とかの 話じゃなくて 「きょう」 がある ってこ…

『シン・ウルトラマン』(2)

「このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え?何故ですって?我々人類は今、宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから」 『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」 “見返りウルトラマン”は、なぜ、「地球人とコミュニケートする意志」をもつに至っ…

薔薇の舟

淋しくて たまらない とき ぼくは きみの 名を 呼ぶ そして 思う 名前 って べんりだ と 恋しくて たまらない とき ぼくは きみに 「愛してる」と 言う そして 思う 言葉 って べんりだ と でも 違う 違うんだ かたち あるもの かたち ないもの すべて 言葉…

『シン・ウルトラマン』(1)

「そう、人間の生きる時間にはかぎりがあるし、生きている場所や行動半径にもかぎりがある。 けれども、夢だけは、現実を忘れさせるほどに飛翔してゆく。 それは、かなえられることもなく終わってしまうから、まさに“夢”なのだろうけど、人間の生き方をささ…

raindrop

雨に 濡れる のは 嫌い じゃ ない いちど 雨に 濡れたら 傘 なんて いらない さあ 両手を ひろげ 顔を あげて 草木の ように 全身で 受けとめよう ほほ に ひたい に 数えきれない やさしい キスを 泣きたくても じょうずに 泣けない わたしの かわりに たく…

映画『象は静かに座っている』(6)

高校生の少年、ブー。 その同級生の少女、リン。 ブーと同じ共同住宅に住む高齢男性、ジン。 そして、炭鉱業が廃れ、世界から忘れ去られた、小さな田舎町の不良グループのリーダー、チェン。 ビリヤードに例えるならば、彼ら4人の運命の球は、あちらへ突か…

タブラ・ラサ

生まれたとき 手紙を 持ってたはず なんだ そう ぼくが なぜ こんなに 苦しいのか なぜ こんなに かなしいのか なのに なぜ 生まれたのか けれども その手紙は 日々 手あかにまみれ 踏みにじられ 破れて いまは もう 何が書いて あったのか 読めも しない だ…

映画『象は静かに座っている』(5)

どこかの森で、一本の木が切られると、遠く離れた、どこかの森で、もう一本、まったく別の木が、同時に倒れる―。 こんな現象を、「シンクロニシティ」、というらしいですね。 (「粒子Aの性質を変化させると、物理的なつながりがない、遠く離れた粒子Bの性質…

あしたの 太陽

眠れぬ夜の 朝は しらじらと 明けて 太陽は 低く 重い なまり色の雲を 押しのけて むっくりと 顔を 出す 世界は わがもの と 自信たっぷりの その顔に 吐き気をもよおす ものが いるなど 思いも せずに ひとりきりで あした から おいていかれる 自分を あし…

「忘れてた くせに 忘れてた くせに」 と 桜が つぶやく 太陽が しらじらと光る ハレーション 涙で くもった 視界の ように 音も せずに さらさらと 風に 引きちぎられた 花の雨 きみの 髪 おきざりに された 花びら ひとつ 「忘れてた くせに 忘れてた くせ…

映画『象は静かに座っている』(4)

どうしてこんなことに…… むかし読んだ漫画なのですが、誰の、何という作品だったか、覚えていません。 とにかく、なぜか、その場面だけが、強く印象に残っているのです。 ある女性が、キャットウォークのような、地上から少し高くて狭い通路を歩いています。…