他人の星

déraciné

エッセイ

映画『メランコリア』(5)

「たいていの場合、動物は悲しそうよ」と彼女は言いつづけた。 「歯が痛いとか、お金をなくしたとかいうためではなくて、人生全体が、いっさいのものがどうであるかを、しばしのあいだ感じたために、人間がひどく悲しんでいる場合、人間は真実悲しいのよ。そ…

映画『メランコリア』(4)

クレアとジャスティン さて、幸福になれるチャンスも、夫も職も、何もかもなくした妹のジャスティンは、その後、うつ病の症状でいうところの、昏迷状態に陥ります。 昏迷とは、考えること、感じること、何かをしよう・したいという意志や意欲、ほぼすべての…

映画『メランコリア』(3)

ママとパパが おまえをだめにした そのつもりはなかったんだろうが そうなったのさ 彼らは 自分たちの失敗を たっぷりおまえにつめこんだ おまえのためによかれと よけいなものまで追加して でも 彼らだって だめにされたんだ 古くさい帽子と コートを着た愚…

映画『メランコリア』(2)

「結婚しちゃいけない!まだ間に合う、考え直すんだ、二人とも。いいことなんて何も待ってないぞ。後悔とにくしみと醜聞と、それからおそろしい性格の子供が二人、それだけさ!」 デルモア・シュウォーツ『夢で責任が始まる』 “しあわせ”、と聞いて、多くの…

映画『メランコリア』(1)

“私の生まれた日は滅び失せよ。” —『ヨブ記』 「新しい朝が来た、希望の朝だ」…… 目覚めた瞬間から、さあ、大変。 はるか彼方まで、ずらりと並んだ、数えきれないほどたくさんのハードル。 今夜の眠りにたどりつくまで、いくつ、ちゃんと飛べるかな? まずは…

『シン・ウルトラマン』(4)

“裁定者 ゾーフィ” さて、『シン・ウルトラマン』では、物語を結末へ導く存在として、テレビ版でのウルトラ兄弟の長兄“ゾフィー”が、“ゾーフィ”、として登場します。 “ゾーフィ”は、狡猾なメフィラス星人でさえ、「ヤバいやつが来た」と、ウルトラマンとの戦…

『シン・ウルトラマン』(3)

「ではなぜ我我は極寒の天にも、まさに溺れんとする幼児を見る時、進んで水に入るのであるか?救うことを快とするからである。では水に入る不快を避け幼児を救う快を取るのは何の尺度に依ったのであろう?より大きい快を選んだのである。」 芥川龍之介『侏儒…

『シン・ウルトラマン』(2)

「このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え?何故ですって?我々人類は今、宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから」 『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」 “見返りウルトラマン”は、なぜ、「地球人とコミュニケートする意志」をもつに至っ…

『シン・ウルトラマン』(1)

「そう、人間の生きる時間にはかぎりがあるし、生きている場所や行動半径にもかぎりがある。 けれども、夢だけは、現実を忘れさせるほどに飛翔してゆく。 それは、かなえられることもなく終わってしまうから、まさに“夢”なのだろうけど、人間の生き方をささ…

映画『象は静かに座っている』(6)

高校生の少年、ブー。 その同級生の少女、リン。 ブーと同じ共同住宅に住む高齢男性、ジン。 そして、炭鉱業が廃れ、世界から忘れ去られた、小さな田舎町の不良グループのリーダー、チェン。 ビリヤードに例えるならば、彼ら4人の運命の球は、あちらへ突か…

映画『象は静かに座っている』(5)

どこかの森で、一本の木が切られると、遠く離れた、どこかの森で、もう一本、まったく別の木が、同時に倒れる―。 こんな現象を、「シンクロニシティ」、というらしいですね。 (「粒子Aの性質を変化させると、物理的なつながりがない、遠く離れた粒子Bの性質…

映画『象は静かに座っている』(4)

どうしてこんなことに…… むかし読んだ漫画なのですが、誰の、何という作品だったか、覚えていません。 とにかく、なぜか、その場面だけが、強く印象に残っているのです。 ある女性が、キャットウォークのような、地上から少し高くて狭い通路を歩いています。…

映画『象は静かに座っている』(3)

「わたし、ここにいても、いいのかな」 ところで、「居場所がない」とは、どういうことなのでしょうか。 「学校に居場所がない」、「家庭に居場所がない」などとよく言いますが、そこには、人間の生き死ににかかわるほどの、切実な意味があると思うのです。 …

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(5)―「それでも、やっぱり、“エヴァ”が好き」

“親は、他人のはじまり” 自分と、「世界」―多くの場合、それは、「他人」の存在に象徴されますが―との間に、どうしても感じてしまう、違和感。 それを、「おそろしい」、「こわい」、「こころぼそい」、という感覚でもって、私が初めて意識したのは、たしか…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(4)―「僕たちの、失敗」

「何十日も仕事して、その持久戦に耐えていくあれがなくなって。だからしんどくなってきて。あの状態で生きていこう思ったら、誰か他人でも親戚でもね、僕がその時点でも思っとったんやけど、十二万円の障害年金渡すから、上げ膳据え膳でずっと一つの部屋に…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(3)―「彼女が農作業着に着替えたら」

アヤナミが、農作業着なんか着ちゃったら、おしまいですよ、そりゃ。 水着なら、ともかくも………。 (綾波には、やっぱり白が……) 新しい“自然”—都市型無秩序 繰り返しになりますが、私がウルトラマンや、ウルトラセブンに感じていた郷愁がいったい何だったの…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2)—「大人になんか、なりたくないよ」

「大人というものは侘しいものだ。愛し合っていても、用心して、他人行儀を守らなければならぬ。……見事に裏切られて、赤恥をかいた事が多すぎたからである。人は、あてにならない、という発見は、青年の大人に移行する第一課である。大人とは、裏切られた青…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(1)―「あの日の夢を、花束にして」

「人間同士の信頼感を利用するとは、恐ろしい宇宙人です。でもご安心ください、このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え?何故ですって?我々人類は今、宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから」 ―『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」 「…

『パラサイト 半地下の家族』(4)―どっちが“パラサイト”?―

「平和」はいつも犠牲者の屍の上に 私は、子どもの頃からウルトラマンが大好きで、特撮シリーズに夢中になったまま、大きくなりました。 中でも、今でも見るたびに、どうしても涙が出てしまう作品があります。 それは、『ウルトラマン』の第23話「故郷は地球…

『パラサイト 半地下の家族』(3)―「悪」もなく「善」もなく―

ここからは、大いにネタバレを含みますので、ご注意ください。 さて、めでたくパク家に全員が職を得たキム家は、パク一家が息子ダソンの誕生祝いのキャンプに出かけたのをいいことに、パク邸の居間を占拠し、酒盛りを始めます。 そして、この夜、予期せぬ事…

『パラサイト 半地下の家族』(2)―自立?-

「めしを食べなければ死ぬ、という言葉は、自分の耳には、ただイヤなおどかしとしか聞えませんでした。その迷信は、(いまでも自分には、なんだか迷信のように思われてならないのですが)しかし、いつも自分に不安と恐怖を与えました。人間は、めしを食べな…

『パラサイト 半地下の家族』(1)ー人間の価値?ー

ワインの価値は 「つまり、人間はラベルなんだよ。一流のビンテージなら、一流の人間に飲まれ、安いビンテージなら、安い人間にしか相手にされない」 「そうかな。たとえこれが1000円の安いワインだったとしても、12万円だって言われたら、みんな、ありがた…

『リリーのすべて』(3)ーわたしの中の、“火掻き棒”ー

“あぁ、カン違い” 漫画『サザエさん』の中に、とても興味深いエピソードがあります。 カツオくんが、交通量の多い大通りに面した歩道を歩いていると、同じ学校に通う女の子に出会います。 「ア!! 一組の岡さん」 岡さんは、言います。 「アラ このへんはじめ…

『リリーのすべて』(2)ー「わたし」を生かすもの、あるいは、「殺す」ものー

雪だるまの“恋” アンデルセン童話の中に、『雪だるま』というお話があります。 雪だるまは、外から見える家の中のストーブが、赤々と、時折、ちらちらと炎の舌を見せながら燃えるのを見た途端、なんとも妙な気持ちになり、胸が張り裂けそうになるのです。 “…

『リリーのすべて』(1)ー「自分」でいようとすることが、どうしてこんなにも難しいのかー

「ごめんなさい」「すみません」は、最大の防御 つい、一週間ほど前のことでした。 バスの中で、女子大生が2人、そこそこの声量で(少なくとも、車内の人全員に、話の内容がすっかりわかるくらいの)、(マスクをして)、おしゃべりをしていました。 「コロ…

アーサー.C.クラーク 『幼年期の終わり』(3)―苦しい「個」の生は、いったい何のために?―

過ちは去りゆく……… この間、何気なく、テレビ(いずれ去りゆく運命にあるじじばばメディア、と私はよく、パートナーに言っていますが)を見ていて、いまさらのように気がついたことがありました。 そうか、「過去」とは、「過ちが去る」、と書くのだっけ……… …

アーサー.C.クラーク 『幼年期の終わり』(2)―ヒトがヒトの正体を知らなさすぎる、という謎―

数週間前の土曜の夕食時、テレビを見ていて、思わず、カレーを食べる手が止まりました。 見ていたのは、NHK・Eテレの『地球ドラマチック』で、『ハッブル宇宙望遠鏡~宇宙の謎を探る30年間の軌跡~』です。 ハッブル宇宙望遠鏡は、宇宙が始まったばかり…

アーサー.C.クラーク 『幼年期の終わり』(1)―ヒトの戦争好きは、ヒトの幼きゆえなのか―

昨年8月、NHK・Eテレの『100分で名著』、ロジェ・カイヨワの『戦争論』が取り上げられたとき、指南役の西谷修氏は、「現代(いま)は、冷凍庫の中で戦争しているようなもの」、と言いました。 私は、なんてうまい表現だろう、と思いました。 あるいは、…

ウィリアム・ゴールディング『蠅の王』(6)―なぜ人は、“人間らしさ”=優しさやあたたかさ、思いやりだと思うのか?

人間は、そんなにいいものか? 「いったいみなさんは、人間の本性に利己主義的な悪が関与していることを否定する義務を感じなければならぬほど、上司や同僚から親切にされたり、敵に義侠心を見出したり、周囲からねたまれずにいたりしているのでしょうか。」…

ウィリアム・ゴールディング 『蠅の王』(4)…にかこつけて、「マスクするのしないの云々かんぬん」について

「ラーフは他の所を通らず、この固くなっている一条の砂地の上を歩いていった。考えごとをしたかったからである。この砂地の上だけしか、足に気をとられずに自由に歩ける所はほかになかった。波打ち際を歩きながら、彼はあることに気づき、愕然とした。この…