他人の星

déraciné

日記

あるセミのはなし

それは、真っ青な空がまぶしい、夏の盛りの、ある暑い日のことでした。 一匹のセミが、森の奥深くにある、木の幹に止まりました。 セミは、なつかしげに、言いました。 「やあ、久しぶり。おぼえているかな、ぼくのこと」 木は、そのセミが、自分に向かって…

蟻がたかっているかもしれない

テレビは、騒ぎ立てている。 外来種のカメだとか、ザリガニだとか、サカナだとか。 そいつらが、生態系を破壊しているから、じゃんじゃん駆除したまえ、と。 しかし…… 「生態系、著しく破壊してるの、オマエだろうがあぁぁぁぁ!!!」 と、すべての動植物か…

ドキュメント『シン・仮面ライダー~ヒーローアクション挑戦の舞台裏』(2)

「社会に適応しきれないモノが、欲求不満を防衛反応にて解消しようとする精神的行為を、フィルム作りという集団的かつ、商業アニメという経済的行動で遂行しようとしているという矛盾もあります。」 ―庵野秀明『フィルムを作ることの快感』 庵野氏の、「社会…

ドキュメント『シン・仮面ライダー~ヒーローアクション挑戦の舞台裏』(1)

「自己嫌悪、よく実感する感覚。 自己肯定、あまりなじみのない感覚。 自分を一言で表せる言葉は、「浅はか」に尽きる。」 ―庵野秀明『フィルムを作ることの快感』 (NEON GENESIS EVANGELION サントラCDより) 「いったい、何が始まったのだろう?」 という…

消息不明

土曜日に 液体で発見された あたしは 火曜日まで 戻らなかった 金曜日には よどんだ沼の ほとりで 死体袋のまま 横たわり 列車が 轢いていった 月曜日に 気体となって ふわり 忽然と 消えた あたしは 夜半過ぎ 扉を たたいた 「ウシロ ノ 正面 ダレ ダ」 日…

Cry baby cry

赤ちゃん お泣きよ 今のうちに たんまりと 大地が 裂けて 風が うなる 火柱が あがり 水が 逆巻く ように おおいに 嘆いておくが いいさ この世は 不快な こと だらけ この世は なんと 愉快で 滑稽なまでに 不愉快さに 満ちている こと か いま きみだけに …

Sentimental journey

人生は 旅 だと いう 旅は いつも ものがなしくて さびしい 行けば 帰らねば ならず かならず 終わりが おとずれる 青空 さえ のぞけば 真昼の 白い 月が どこまでも ついてくる ほんの一時 何もかも 忘れ はしゃいでも ふと 気づけば あの月が わたしを 見…

レクイエム

生きること は 世界 への 誰か たった ひとり への 絶望的な 片想いに 似て 眠れば 重い なまり色の 夢を見て 起きれば 虚しい 灰色の 朝を見る きらきら 光る 水面 すれすれに あなたは まっすぐ 飛んでいく 水は 喜び しぶきを あげて うたい おどる わた…

graduate

「これから スタバで ゆずシトラスティー 飲むの」 と 彼女たちは 言った その 言葉の 響きに 青くて 鮮烈で さわやかな 香りがした 降っても 晴れても 同じ教室で すごした 日々が 彼女たち ふたりを 包みこみ いまは 夕暮れどき もうすぐ ここを 去ってい…

「キョッ キョッ」 という音に いったい なぜ どうして いま と おどろいて 声の主を 探した その 数秒後 には 勘違いだ と 気づいて ああ 馬鹿だな と思う この 音は 車の アンサーバック なのに わたし は 昼間 なのに ヨタカが 鳴いている と あたりを み…

映画『シークレット・サンシャイン』(2)

私たちは、幸福を求める。 この世に生まれた以上は、幸福に生きたいと願う。 しかし、実際には、フロイトが言うように、「不幸を経験する方が、はるかにたやすい」。 フロイトによれば、私たちを、幸福から遠ざけるものは、自分の身体、外界、他者との関係の…

赤い くつ

今宵の 暮色は ほんのり 白く 見あげれば 白鳥たちが 真白い おなかを見せて 飛んでいく かなしい声で 鳴きながら 風は 口を すぼめて ひゅうひゅうと ためらいがちに うしなわれたものの 名を ひとつ ひとつ 読みあげる けれど わたしは いつも 欲に 目がく…

happy-go-lucky

「人ごみは 苦手」 なんて 言ってた くせに なんで 来ちゃったかなあ 正月 三日目の 初売り ショッピングモール 実は かっこつけてた だけなんでしょ 人が 多いの なんて 本当は そんな 気になりも しないのに ただ ただ 疲れて 人が大勢 上り下りする エス…

キレイハキタナイ キタナイハキレイ

目を 伏せて ずっと 下を 向いて 歩いて いたら いつの間にか 季節は うつり イチョウは 黄色に メタセコイアは 赤茶色に ツタは 紅色に 染まって いた 咲き つくした コスモスは 背丈が 伸びすぎて 道に倒れ 小さい 真っ赤な花を たくさんつけた キクは み…

僕たちの 大失敗

冬のにおいが 鼻を かすめると みんな 家路を 急ぎたくなる らしい とっぷり 暮れた 闇は 濃くなるばかりで ああ 暗くて 寒いのは 死んで 墓に入るまで 勘弁 してくれよ 昼光色の 明るい あたたかい 我が家へ はやく はやく 帰ろう それは いっこうに かまわ…

劇中劇

誰かの 過去が 流れる 映画の シーン モノクローム の モノローグ セピア色 って 名前が素敵 と思ったら 由来は イカスミだと 知って 何だか 妙にかなしくて 笑った日 子どもの とき うちあげられた 落下傘花火を 必死で 追いかけた けれど わたしは決して …

涙を ながしながら みあげた 空 「いったい 何が そんなに 欲しい?」と きいてくる 澄みわたる 青の かなしみと 冷静 情熱の 赤も かなわない 熱情の 青い炎に 目が 熱く 痛む うつむきながら 時も忘れて 歩いて いると 太陽は 今日最期の光を 矢にして 投…

「無神経」

「食べなくて いい って 思っちゃうんだ」 と 彼女は 言った もう 私を 攻撃しないで と 笑顔で 守る 細い からだ は 秋の陽に 透ける 蜘蛛の巣 みたいに 消えそうで わたしは その手を とりたく なった けれども それは 彼女の もの ではなくて わたしの 淋…

「気持ち 悪い」

ありがとう ありがとう って言うたびに いつも どこかが むずむずする その ことばを ならった日々を 思い出す からだ 「“ありがとう”は?」 ママが 言った 「お友だち」と そのママの前で もらったのが クッキーだったか チョコレートだったか キャンディー…

双頭の 蛇 

何もかも 気に入らない ナニモカモ キニイラナイ 何だって? 何かが おまえの お気に召すようになるとでも? 何もかも 思いどおりにならぬ ナニモカモ オモイドオリニナラヌ 何だって? 何かが おまえの 思いどおりになるとでも? 無数の あざけり笑いが 不…

真夏の 葬列

真夏の 日盛りに 葬列を 見た 標本のように 完璧な セミの幼虫が 地を這っている と 思ったら それは 黒々とした 小さい蟻が 無数にたかって 少しずつ 少しずつ すすんでいく そのさまであって きみの いのちは もう ないのだった 大事な 大事な 食糧を 蟻た…

信号機と ヒグラシと 同調圧力

絶対 必要ない ところに ついてる 信号機って あれ どういうわけなんだろうって そこに 来るたび 思い出したように 思う まるで 自然に 朽ち果てて 消滅するはずの いらない 配線の 一部が残ってる みたいな あるいは 廃墟の 一部 みたいな でもね みんな 赤…

「こんにちは」と「さようなら」のあいだ

もし 「こんにちは」 と 「さようなら」の間が もっと 短かったなら もっと 短くて はかないものだと ちゃんと わかって いたなら きみに もっと やさしく できたの かな ぼくが しているのは 寿命 とか 余命 とかの 話じゃなくて 「きょう」 がある ってこ…