他人の星

déraciné

映画

映画『シン・仮面ライダー』

単純に、素直に、「面白かった」。 アニメーションであること、そして何より、長きにわたるお付き合いだった『シン・エヴァ』は別として、単発映画『シン』シリーズの中では、私には、いちばん面白く感じられた。 『ウルトラマン』や、『仮面ライダー』を代…

映画『バーニング』

「姉さん。 信じて下さい。 僕は、遊んでも少しも楽しくなかったのです。快楽のイムポテンツなのかも知れません。僕はただ、貴族という自身の影法師から離れたくて、狂い、遊び、荒んでいました。 姉さん。 いったい、僕たちに罪があるのでしょうか。」 ―太…

映画『シークレット・サンシャイン』(2)

私たちは、幸福を求める。 この世に生まれた以上は、幸福に生きたいと願う。 しかし、実際には、フロイトが言うように、「不幸を経験する方が、はるかにたやすい」。 フロイトによれば、私たちを、幸福から遠ざけるものは、自分の身体、外界、他者との関係の…

映画『シークレット・サンシャイン』(1)

もう何十年も前のことである。 高校時代、私は、同級生から誘われ(けっこう強引に)、日曜日に、老人ホームへボランティアに行くのにつき合った(けっこう頻繁に)。 そのたびごと、翌月曜日には、彼女は元気で学校へ行けても、私は、ホームを満たすクレゾ…

映画『ラ・ラ・ランド』

実によくできた映画だ、と思った。 おそらくは、つくり手側が望んだであろう到達点に、これしかない、というプロセスをたどって、きれいに着地している。 私は、ミュージカル映画は基本的に苦手だが、この程度であれば、仰々しくもなく、嫌みにも感じないの…

映画『はちどり』(3)

この時期になると、いつも思うことがある。 どうして、クリスマスには、ごちそうやケーキを食べなくちゃならないんだろう? どうして、おおみそかには、年越しそばを食べなくちゃならないんだろう? どうして、お正月には、おもちやらおせち料理を食べなくち…

映画『はちどり』(2)

この世に、平等な人間関係など、存在しないと思う。 程度の差こそあっても、どちらかが組み敷かれ、どちらかが組み敷いている。 もし、“私たちの関係は、平等だ”、と思っている人がいるのなら、その人は、ほぼ確実に、「相手を組み敷いている」。 なぜなら、…

映画『はちどり』(1)

七面倒臭い人生を生きてきた人は、七面倒臭い性格になるのか? 単純明快な人生を生きてきた人は、単純明快な性格になるのか? そう、かもしれない。 けれど、そんなに簡単でもないのかもしれない。 七面倒臭い人生を生きてきたのに、わりと無頓着な性格にな…

映画『メランコリア』(5)

「たいていの場合、動物は悲しそうよ」と彼女は言いつづけた。 「歯が痛いとか、お金をなくしたとかいうためではなくて、人生全体が、いっさいのものがどうであるかを、しばしのあいだ感じたために、人間がひどく悲しんでいる場合、人間は真実悲しいのよ。そ…

映画『メランコリア』(4)

クレアとジャスティン さて、幸福になれるチャンスも、夫も職も、何もかもなくした妹のジャスティンは、その後、うつ病の症状でいうところの、昏迷状態に陥ります。 昏迷とは、考えること、感じること、何かをしよう・したいという意志や意欲、ほぼすべての…

映画『メランコリア』(3)

ママとパパが おまえをだめにした そのつもりはなかったんだろうが そうなったのさ 彼らは 自分たちの失敗を たっぷりおまえにつめこんだ おまえのためによかれと よけいなものまで追加して でも 彼らだって だめにされたんだ 古くさい帽子と コートを着た愚…

映画『メランコリア』(2)

「結婚しちゃいけない!まだ間に合う、考え直すんだ、二人とも。いいことなんて何も待ってないぞ。後悔とにくしみと醜聞と、それからおそろしい性格の子供が二人、それだけさ!」 デルモア・シュウォーツ『夢で責任が始まる』 “しあわせ”、と聞いて、多くの…

映画『メランコリア』(1)

“私の生まれた日は滅び失せよ。” —『ヨブ記』 「新しい朝が来た、希望の朝だ」…… 目覚めた瞬間から、さあ、大変。 はるか彼方まで、ずらりと並んだ、数えきれないほどたくさんのハードル。 今夜の眠りにたどりつくまで、いくつ、ちゃんと飛べるかな? まずは…

『シン・ウルトラマン』(4)

“裁定者 ゾーフィ” さて、『シン・ウルトラマン』では、物語を結末へ導く存在として、テレビ版でのウルトラ兄弟の長兄“ゾフィー”が、“ゾーフィ”、として登場します。 “ゾーフィ”は、狡猾なメフィラス星人でさえ、「ヤバいやつが来た」と、ウルトラマンとの戦…

『シン・ウルトラマン』(3)

「ではなぜ我我は極寒の天にも、まさに溺れんとする幼児を見る時、進んで水に入るのであるか?救うことを快とするからである。では水に入る不快を避け幼児を救う快を取るのは何の尺度に依ったのであろう?より大きい快を選んだのである。」 芥川龍之介『侏儒…

『シン・ウルトラマン』(2)

「このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え?何故ですって?我々人類は今、宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから」 『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」 “見返りウルトラマン”は、なぜ、「地球人とコミュニケートする意志」をもつに至っ…

『シン・ウルトラマン』(1)

「そう、人間の生きる時間にはかぎりがあるし、生きている場所や行動半径にもかぎりがある。 けれども、夢だけは、現実を忘れさせるほどに飛翔してゆく。 それは、かなえられることもなく終わってしまうから、まさに“夢”なのだろうけど、人間の生き方をささ…

映画『象は静かに座っている』(6)

高校生の少年、ブー。 その同級生の少女、リン。 ブーと同じ共同住宅に住む高齢男性、ジン。 そして、炭鉱業が廃れ、世界から忘れ去られた、小さな田舎町の不良グループのリーダー、チェン。 ビリヤードに例えるならば、彼ら4人の運命の球は、あちらへ突か…

映画『象は静かに座っている』(5)

どこかの森で、一本の木が切られると、遠く離れた、どこかの森で、もう一本、まったく別の木が、同時に倒れる―。 こんな現象を、「シンクロニシティ」、というらしいですね。 (「粒子Aの性質を変化させると、物理的なつながりがない、遠く離れた粒子Bの性質…

映画『象は静かに座っている』(4)

どうしてこんなことに…… むかし読んだ漫画なのですが、誰の、何という作品だったか、覚えていません。 とにかく、なぜか、その場面だけが、強く印象に残っているのです。 ある女性が、キャットウォークのような、地上から少し高くて狭い通路を歩いています。…

映画『象は静かに座っている』(3)

「わたし、ここにいても、いいのかな」 ところで、「居場所がない」とは、どういうことなのでしょうか。 「学校に居場所がない」、「家庭に居場所がない」などとよく言いますが、そこには、人間の生き死ににかかわるほどの、切実な意味があると思うのです。 …

映画『象は静かに座っている』(2)

さて、ここからはネタバレになりますので、ご注意ください。 この世の居場所のなくしかた ーチェンの場合ー 映画は、高層マンションの一室の窓際に座り、タバコをふかすチェンの姿から始まります。 彼は、自分の恋人に拒絶され、その勢いで、親友の妻と、一…

映画『象は静かに座っている』(1)

「私は今のところ自殺を好まない。恐らく生きるだけ生きているだろう。そうしてその生きているうちは普通の人間の如く私の持って生れた弱点を発揮するだろうと思う。私はそれが生だと考えるからである。私は生の苦痛を厭うと同時に無理に生から死に移る甚だ…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(5)―「それでも、やっぱり、“エヴァ”が好き」

“親は、他人のはじまり” 自分と、「世界」―多くの場合、それは、「他人」の存在に象徴されますが―との間に、どうしても感じてしまう、違和感。 それを、「おそろしい」、「こわい」、「こころぼそい」、という感覚でもって、私が初めて意識したのは、たしか…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(4)―「僕たちの、失敗」

「何十日も仕事して、その持久戦に耐えていくあれがなくなって。だからしんどくなってきて。あの状態で生きていこう思ったら、誰か他人でも親戚でもね、僕がその時点でも思っとったんやけど、十二万円の障害年金渡すから、上げ膳据え膳でずっと一つの部屋に…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(3)―「彼女が農作業着に着替えたら」

アヤナミが、農作業着なんか着ちゃったら、おしまいですよ、そりゃ。 水着なら、ともかくも………。 (綾波には、やっぱり白が……) 新しい“自然”—都市型無秩序 繰り返しになりますが、私がウルトラマンや、ウルトラセブンに感じていた郷愁がいったい何だったの…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2)—「大人になんか、なりたくないよ」

「大人というものは侘しいものだ。愛し合っていても、用心して、他人行儀を守らなければならぬ。……見事に裏切られて、赤恥をかいた事が多すぎたからである。人は、あてにならない、という発見は、青年の大人に移行する第一課である。大人とは、裏切られた青…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(1)―「あの日の夢を、花束にして」

「人間同士の信頼感を利用するとは、恐ろしい宇宙人です。でもご安心ください、このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え?何故ですって?我々人類は今、宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから」 ―『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」 「…

『パラサイト 半地下の家族』(4)―どっちが“パラサイト”?―

「平和」はいつも犠牲者の屍の上に 私は、子どもの頃からウルトラマンが大好きで、特撮シリーズに夢中になったまま、大きくなりました。 中でも、今でも見るたびに、どうしても涙が出てしまう作品があります。 それは、『ウルトラマン』の第23話「故郷は地球…

『パラサイト 半地下の家族』(3)―「悪」もなく「善」もなく―

ここからは、大いにネタバレを含みますので、ご注意ください。 さて、めでたくパク家に全員が職を得たキム家は、パク一家が息子ダソンの誕生祝いのキャンプに出かけたのをいいことに、パク邸の居間を占拠し、酒盛りを始めます。 そして、この夜、予期せぬ事…