他人の星

déraciné

「無神経」

「食べなくて いい って 思っちゃうんだ」 と 彼女は 言った もう 私を 攻撃しないで と 笑顔で 守る 細い からだ は 秋の陽に 透ける 蜘蛛の巣 みたいに 消えそうで わたしは その手を とりたく なった けれども それは 彼女の もの ではなくて わたしの 淋…

「気持ち 悪い」

ありがとう ありがとう って言うたびに いつも どこかが むずむずする その ことばを ならった日々を 思い出す からだ 「“ありがとう”は?」 ママが 言った 「お友だち」と そのママの前で もらったのが クッキーだったか チョコレートだったか キャンディー…

双頭の 蛇 

何もかも 気に入らない ナニモカモ キニイラナイ 何だって? 何かが おまえの お気に召すようになるとでも? 何もかも 思いどおりにならぬ ナニモカモ オモイドオリニナラヌ 何だって? 何かが おまえの 思いどおりになるとでも? 無数の あざけり笑いが 不…

真夏の 葬列

真夏の 日盛りに 葬列を 見た 標本のように 完璧な セミの幼虫が 地を這っている と 思ったら それは 黒々とした 小さい蟻が 無数にたかって 少しずつ 少しずつ すすんでいく そのさまであって きみの いのちは もう ないのだった 大事な 大事な 食糧を 蟻た…

信号機と ヒグラシと 同調圧力

絶対 必要ない ところに ついてる 信号機って あれ どういうわけなんだろうって そこに 来るたび 思い出したように 思う まるで 自然に 朽ち果てて 消滅するはずの いらない 配線の 一部が残ってる みたいな あるいは 廃墟の 一部 みたいな でもね みんな 赤…

「こんにちは」と「さようなら」のあいだ

もし 「こんにちは」 と 「さようなら」の間が もっと 短かったなら もっと 短くて はかないものだと ちゃんと わかって いたなら きみに もっと やさしく できたの かな ぼくが しているのは 寿命 とか 余命 とかの 話じゃなくて 「きょう」 がある ってこ…

薔薇の舟

淋しくて たまらない とき ぼくは きみの 名を 呼ぶ そして 思う 名前 って べんりだ と 恋しくて たまらない とき ぼくは きみに 「愛してる」と 言う そして 思う 言葉 って べんりだ と でも 違う 違うんだ かたち あるもの かたち ないもの すべて 言葉…

raindrop

雨に 濡れる のは 嫌い じゃ ない いちど 雨に 濡れたら 傘 なんて いらない さあ 両手を ひろげ 顔を あげて 草木の ように 全身で 受けとめよう ほほ に ひたい に 数えきれない やさしい キスを 泣きたくても じょうずに 泣けない わたしの かわりに たく…

タブラ・ラサ

生まれたとき 手紙を 持ってたはず なんだ そう ぼくが なぜ こんなに 苦しいのか なぜ こんなに かなしいのか なのに なぜ 生まれたのか けれども その手紙は 日々 手あかにまみれ 踏みにじられ 破れて いまは もう 何が書いて あったのか 読めも しない だ…

あしたの 太陽

眠れぬ夜の 朝は しらじらと 明けて 太陽は 低く 重い なまり色の雲を 押しのけて むっくりと 顔を 出す 世界は わがもの と 自信たっぷりの その顔に 吐き気をもよおす ものが いるなど 思いも せずに ひとりきりで あした から おいていかれる 自分を あし…

「忘れてた くせに 忘れてた くせに」 と 桜が つぶやく 太陽が しらじらと光る ハレーション 涙で くもった 視界の ように 音も せずに さらさらと 風に 引きちぎられた 花の雨 きみの 髪 おきざりに された 花びら ひとつ 「忘れてた くせに 忘れてた くせ…

影法師

道端に ぺたりと 座り込み 泣いていた あの日の 午後 力が ひとつも 残っていなくて そうするしか なかった あの日の 午後 思い出せない 思い出せない 遠い むかし 「わたし」 を演じる 「わたし」が もとは 何という名の どんな 「わたし」 だったのか いま…

砂の城

いつも 思う どうして もっと 波打ち際から 離れた場所に つくらなかった だろう と 潮が満ちれば あとかたもなく 持ち去られる そんな場所に どうして いつも つくって しまうのだろう と 頑丈な砦と 城壁 高い塔も すぐに 潮は満ちて あとかたもなく ねこ…

正しい 世界の 歩きかた

その少年は いつも 膝を抱え 戸口に 座っている 中は まばゆいばかりの 光に 満ちている というのに 彼は 決して 入ろうとしない 「なぜ」 と 問うと 彼は 言う 「幸せは いつも こうして 待っているときが いちばん 幸せ だから」 と その 老人は いつも 目…

マッチ箱の 夢

マッチ 一本 擦って ぼくは 一本の 缶コーヒーの 夢を 見る ジハンキ から 出たての 熱い缶を 握りしめれば 冷たい指先が じん とする そう ここが いつもの ぼくの 場所 あの 幸せな マッチ売りの少女は 星みたいに光る クリスマス・ツリーに 豪華な ごちそ…

希望の となり

冷たい頬を 熱い 涙が つたい落ちる 野を 焼き 木を なぎはらい 疾走する 溶岩のように かなしみが 果てるまで 鋭い爪で 引き裂いたように 幾筋も 残る この胸の 黒い 傷あとを 涙に 赤く 焼けただれた この頬を どこに あずければ 何に うずめれば 癒えるの…

ふうせん とばそ

きのう までの かなしいこと くるしいこと いやなこと つらいこと ぜんぶ ぜんぶ 吹き込んで 風船にして 飛ばそう 野を越え 山越え 谷越えて ぐんぐん ぐんぐん 空高く あがったら 胸の いたみも 軽くなる かなしみなんて 忘れてる 怒ったことも みんな みん…

青い夢

神々の 書架に はしごをかけた ふとどきもの どこまでも どこまでも 高くつらなる 天井知らずの 書物の棚に いったい 何を 探そうというのか 妖艶な 青い蝶が舞い 神秘の 青い花が 咲き乱れる野を 彼は 探しつづける 人を誘う 森の 暗がりにも 人を惑わす 湖…

太陽の 素顔

わたしは 太陽の 顔を 知らない かたち あるものは すべて おわりを迎える 秋の 歩道に 色あせた 落ち葉も 蝶の 羽の かけらも 雨に濡れて へばりついている わたしには それが 深い もっと深い 谷底まで 落ちていかないように けんめいに しがみつく さいご…

ヒリキ なキミ へ

赤い くれよんで ぼくを 汚す ぐるぐる ぐるぐる 線を描いて 堂々巡り くれよんが 折れても つめが 赤く染まっても 止まらない 赤い 赤い ヒガンバナ おしべについた 朝露は 泣いた あとの きみの まつげみたいだと ぼくは 思った 青い リンドウの花は 野に …

蝉ノ 声ハ 夏ノ オワリ

愛を 叫んで ひと夏 ノドは裂け ぼくは いま 道端に 横たわる もう 飛べない もう 鳴けない 両手が かすかに 動く だけ 愛を 叫んで ひと夏 胸も裂け いま ぼくの 細い呼吸を 秋風が 何とか つないでる 思い わずらう 恋は 赤より ずっとずっと 熱い ブルー …

あいしてル

ひ と いらだち を 感じる いきどおり を 感じる いたみ を 感じる 異星人のように 異質で いごこちが 悪くて いれば いなければいいのに と 思う いなければ いればいいのに と 思う いとおしい と 思うのは 気まぐれな 晴れ間のようで のち ずっと 曇り の…

胸いっぱいの 愛を

風が吹く夜 彼は ひとり 空き地で ボールを 蹴っている ほんとうは 小さい彼を 街灯のあかりが 大人のように 大きくする 昼間の光の下にも 彼はいて こっそりと 風が揺らす 枝葉の木陰で うかれ 遊び ひっそりと いじわるな 皮肉を言っては くすくす 笑う 「…

記憶

あれは いつのこと だっただろう 彼女は ひとりで 波打ち際に 立っていた はじめ ぼくは 彼女の つまさきを いつも 貝殻にしてやるようにして 塩辛い舌で もてあそんでいた ほんの おあそびの つもりで 彼女の 足のまわりの砂を さらっていった 彼女の 足は …

夜ごとの 訪問者

「ねぇ きみ」 僕は この声に 慣れている この声を 知っている 夜ごと あらわれる 轢死した という 男の 声だ 「あの 遮断機も 警報機も 人を 電車から 守るためのものじゃない です」 また そこから 話すか と 思いつつ 僕は 布団の上で 身じろぎもしない …

遺書

遺書を書いて それから つかの間 この世に 顔を出して 振り返れば 水が一滴 落ちる間 くらいに とても 短く けれども あの太陽に じりじりと 照りつけられれば 永遠のように 長く 雨の夜には 雨音が こっちへ こっちへと とても 易しく 道筋を つけるから と…

機械 ノ 涙

ずっと ずっと 雨 だった ような 気がする ずっと ずっと 晴れ だった ような 気がする いまは ただ 風が吹いている 死にものぐるいで やすらぎを 探すのに そんなものは どこにもない 水を打ち 波を立て 木の幹を 引き裂いて 泣き叫び どこまでも どこまで…

2月の空

「すみません」 という 言葉を その場しのぎの 言い逃れ みたいに 何度も 何度も 言っている うちに いつしか 何の 味も しなくなる 「すみません」 すみません って 何だっけ 「ありがとう」 という 言葉を 背筋に 寒気がはしるほど ほんとうは 言いたくも …

鉛の兵隊

光から わが身を 隠さんがため 迷彩服 着た すれっからし 指で 空を 四角く 囲う だだっぴろい 空 など 無用の長物 腹いせに 高く うつろな 尖塔を いくつも いくつも 空へ 突き刺す まるで 太陽でも 砕ける ような 轟音 爆音 鳴らせば 天地を 支配した よう…

bus stop

ぼくは ひとり 誰も 乗っていない 深夜のバスに ゆられている 雨や 風に さらされて 守るべきものも 何も なくなった 破れて 疲れた ビニールハウス みたいに バスは 闇の中を まっすぐ 走っていく ねぇ きみは いつも ぴかぴかで いつも 目的 めがけて 迷わ…