他人の星

déraciné

映画『メランコリア』(2)

「結婚しちゃいけない!まだ間に合う、考え直すんだ、二人とも。いいことなんて何も待ってないぞ。後悔とにくしみと醜聞と、それからおそろしい性格の子供が二人、それだけさ!」 デルモア・シュウォーツ『夢で責任が始まる』 “しあわせ”、と聞いて、多くの…

映画『メランコリア』(1)

“私の生まれた日は滅び失せよ。” —『ヨブ記』 「新しい朝が来た、希望の朝だ」…… 目覚めた瞬間から、さあ、大変。 はるか彼方まで、ずらりと並んだ、数えきれないほどたくさんのハードル。 今夜の眠りにたどりつくまで、いくつ、ちゃんと飛べるかな? まずは…

真夏の 葬列

真夏の 日盛りに 葬列を 見た 標本のように 完璧な セミの幼虫が 地を這っている と 思ったら それは 黒々とした 小さい蟻が 無数にたかって 少しずつ 少しずつ すすんでいく そのさまであって きみの いのちは もう ないのだった 大事な 大事な 食糧を 蟻た…

『シン・ウルトラマン』(4)

“裁定者 ゾーフィ” さて、『シン・ウルトラマン』では、物語を結末へ導く存在として、テレビ版でのウルトラ兄弟の長兄“ゾフィー”が、“ゾーフィ”、として登場します。 “ゾーフィ”は、狡猾なメフィラス星人でさえ、「ヤバいやつが来た」と、ウルトラマンとの戦…

信号機と ヒグラシと 同調圧力

絶対 必要ない ところに ついてる 信号機って あれ どういうわけなんだろうって そこに 来るたび 思い出したように 思う まるで 自然に 朽ち果てて 消滅するはずの いらない 配線の 一部が残ってる みたいな あるいは 廃墟の 一部 みたいな でもね みんな 赤…

『シン・ウルトラマン』(3)

「ではなぜ我我は極寒の天にも、まさに溺れんとする幼児を見る時、進んで水に入るのであるか?救うことを快とするからである。では水に入る不快を避け幼児を救う快を取るのは何の尺度に依ったのであろう?より大きい快を選んだのである。」 芥川龍之介『侏儒…

「こんにちは」と「さようなら」のあいだ

もし 「こんにちは」 と 「さようなら」の間が もっと 短かったなら もっと 短くて はかないものだと ちゃんと わかって いたなら きみに もっと やさしく できたの かな ぼくが しているのは 寿命 とか 余命 とかの 話じゃなくて 「きょう」 がある ってこ…

『シン・ウルトラマン』(2)

「このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え?何故ですって?我々人類は今、宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから」 『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」 “見返りウルトラマン”は、なぜ、「地球人とコミュニケートする意志」をもつに至っ…

薔薇の舟

淋しくて たまらない とき ぼくは きみの 名を 呼ぶ そして 思う 名前 って べんりだ と 恋しくて たまらない とき ぼくは きみに 「愛してる」と 言う そして 思う 言葉 って べんりだ と でも 違う 違うんだ かたち あるもの かたち ないもの すべて 言葉…

『シン・ウルトラマン』(1)

「そう、人間の生きる時間にはかぎりがあるし、生きている場所や行動半径にもかぎりがある。 けれども、夢だけは、現実を忘れさせるほどに飛翔してゆく。 それは、かなえられることもなく終わってしまうから、まさに“夢”なのだろうけど、人間の生き方をささ…

raindrop

雨に 濡れる のは 嫌い じゃ ない いちど 雨に 濡れたら 傘 なんて いらない さあ 両手を ひろげ 顔を あげて 草木の ように 全身で 受けとめよう ほほ に ひたい に 数えきれない やさしい キスを 泣きたくても じょうずに 泣けない わたしの かわりに たく…

映画『象は静かに座っている』(6)

高校生の少年、ブー。 その同級生の少女、リン。 ブーと同じ共同住宅に住む高齢男性、ジン。 そして、炭鉱業が廃れ、世界から忘れ去られた、小さな田舎町の不良グループのリーダー、チェン。 ビリヤードに例えるならば、彼ら4人の運命の球は、あちらへ突か…

タブラ・ラサ

生まれたとき 手紙を 持ってたはず なんだ そう ぼくが なぜ こんなに 苦しいのか なぜ こんなに かなしいのか なのに なぜ 生まれたのか けれども その手紙は 日々 手あかにまみれ 踏みにじられ 破れて いまは もう 何が書いて あったのか 読めも しない だ…

映画『象は静かに座っている』(5)

どこかの森で、一本の木が切られると、遠く離れた、どこかの森で、もう一本、まったく別の木が、同時に倒れる―。 こんな現象を、「シンクロニシティ」、というらしいですね。 (「粒子Aの性質を変化させると、物理的なつながりがない、遠く離れた粒子Bの性質…

あしたの 太陽

眠れぬ夜の 朝は しらじらと 明けて 太陽は 低く 重い なまり色の雲を 押しのけて むっくりと 顔を 出す 世界は わがもの と 自信たっぷりの その顔に 吐き気をもよおす ものが いるなど 思いも せずに ひとりきりで あした から おいていかれる 自分を あし…

「忘れてた くせに 忘れてた くせに」 と 桜が つぶやく 太陽が しらじらと光る ハレーション 涙で くもった 視界の ように 音も せずに さらさらと 風に 引きちぎられた 花の雨 きみの 髪 おきざりに された 花びら ひとつ 「忘れてた くせに 忘れてた くせ…

映画『象は静かに座っている』(4)

どうしてこんなことに…… むかし読んだ漫画なのですが、誰の、何という作品だったか、覚えていません。 とにかく、なぜか、その場面だけが、強く印象に残っているのです。 ある女性が、キャットウォークのような、地上から少し高くて狭い通路を歩いています。…

影法師

道端に ぺたりと 座り込み 泣いていた あの日の 午後 力が ひとつも 残っていなくて そうするしか なかった あの日の 午後 思い出せない 思い出せない 遠い むかし 「わたし」 を演じる 「わたし」が もとは 何という名の どんな 「わたし」 だったのか いま…

映画『象は静かに座っている』(3)

「わたし、ここにいても、いいのかな」 ところで、「居場所がない」とは、どういうことなのでしょうか。 「学校に居場所がない」、「家庭に居場所がない」などとよく言いますが、そこには、人間の生き死ににかかわるほどの、切実な意味があると思うのです。 …

砂の城

いつも 思う どうして もっと 波打ち際から 離れた場所に つくらなかった だろう と 潮が満ちれば あとかたもなく 持ち去られる そんな場所に どうして いつも つくって しまうのだろう と 頑丈な砦と 城壁 高い塔も すぐに 潮は満ちて あとかたもなく ねこ…

映画『象は静かに座っている』(2)

さて、ここからはネタバレになりますので、ご注意ください。 この世の居場所のなくしかた ーチェンの場合ー 映画は、高層マンションの一室の窓際に座り、タバコをふかすチェンの姿から始まります。 彼は、自分の恋人に拒絶され、その勢いで、親友の妻と、一…

正しい 世界の 歩きかた

その少年は いつも 膝を抱え 戸口に 座っている 中は まばゆいばかりの 光に 満ちている というのに 彼は 決して 入ろうとしない 「なぜ」 と 問うと 彼は 言う 「幸せは いつも こうして 待っているときが いちばん 幸せ だから」 と その 老人は いつも 目…

マッチ箱の 夢

マッチ 一本 擦って ぼくは 一本の 缶コーヒーの 夢を 見る ジハンキ から 出たての 熱い缶を 握りしめれば 冷たい指先が じん とする そう ここが いつもの ぼくの 場所 あの 幸せな マッチ売りの少女は 星みたいに光る クリスマス・ツリーに 豪華な ごちそ…

映画『象は静かに座っている』(1)

「私は今のところ自殺を好まない。恐らく生きるだけ生きているだろう。そうしてその生きているうちは普通の人間の如く私の持って生れた弱点を発揮するだろうと思う。私はそれが生だと考えるからである。私は生の苦痛を厭うと同時に無理に生から死に移る甚だ…

希望の となり

冷たい頬を 熱い 涙が つたい落ちる 野を 焼き 木を なぎはらい 疾走する 溶岩のように かなしみが 果てるまで 鋭い爪で 引き裂いたように 幾筋も 残る この胸の 黒い 傷あとを 涙に 赤く 焼けただれた この頬を どこに あずければ 何に うずめれば 癒えるの…

ふうせん とばそ

きのう までの かなしいこと くるしいこと いやなこと つらいこと ぜんぶ ぜんぶ 吹き込んで 風船にして 飛ばそう 野を越え 山越え 谷越えて ぐんぐん ぐんぐん 空高く あがったら 胸の いたみも 軽くなる かなしみなんて 忘れてる 怒ったことも みんな みん…

青い夢

神々の 書架に はしごをかけた ふとどきもの どこまでも どこまでも 高くつらなる 天井知らずの 書物の棚に いったい 何を 探そうというのか 妖艶な 青い蝶が舞い 神秘の 青い花が 咲き乱れる野を 彼は 探しつづける 人を誘う 森の 暗がりにも 人を惑わす 湖…

太陽の 素顔

わたしは 太陽の 顔を 知らない かたち あるものは すべて おわりを迎える 秋の 歩道に 色あせた 落ち葉も 蝶の 羽の かけらも 雨に濡れて へばりついている わたしには それが 深い もっと深い 谷底まで 落ちていかないように けんめいに しがみつく さいご…

ヒリキ なキミ へ

赤い くれよんで ぼくを 汚す ぐるぐる ぐるぐる 線を描いて 堂々巡り くれよんが 折れても つめが 赤く染まっても 止まらない 赤い 赤い ヒガンバナ おしべについた 朝露は 泣いた あとの きみの まつげみたいだと ぼくは 思った 青い リンドウの花は 野に …

蝉ノ 声ハ 夏ノ オワリ

愛を 叫んで ひと夏 ノドは裂け ぼくは いま 道端に 横たわる もう 飛べない もう 鳴けない 両手が かすかに 動く だけ 愛を 叫んで ひと夏 胸も裂け いま ぼくの 細い呼吸を 秋風が 何とか つないでる 思い わずらう 恋は 赤より ずっとずっと 熱い ブルー …