故郷
はたらき疲れた おとなのように
小さい漁船が 眠りにつく
ゆりかごのように ゆらす波
暮れる光は 天蓋つきの カーテン
遠い山に 沈む一瞬
最後の陽光の まぶしさに
ここが 私の故郷でないことを 思い出す
ここは 故郷から 西へ 西へ
空を渡ってたどりついた 小さな波止場
故郷の海は 冷たくて
波は 砂浜を 引きはがす
手あたり次第 容赦なく
沖へ 沖へと 押し流す
いま眠る この漁船を そっと
あの海へ移したら きっと
驚いて 目を覚ますに違いない
思い出すたび トゲが増える
思い出すたび ちくちく痛む
記憶のせいだ
あんまり 思いが 濃すぎたから
あんまり 嘘を つきすぎたから
わたしは 故郷で 安らげない