他人の星

déraciné

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第3話

 

 自分と同じ顔をした姫が、思案に暮れたっきり、何も言ってこないので、娘は、いらだちを感じていました。

 

 しかし、そのとき、ふいにまた、さっきのあの声が聞こえてきたのです。

 

 「……おまえの、その顔。その顔に、隠そうとしても隠せない、高貴な血。だから、いつかきっと………。」

 

 それは、病床にあって死にかけている、娘の母親の、最後の言葉でした。

 

 もっとも、娘は、自分の母親のことをあまり好きではありませんでした。

 なにしろ、あまりにも愚かすぎ、また、あまりにも哀れすぎたのです。

 

 最初のうちは、そんなにお金に困っていた記憶はありませんでした。

 むしろ、村の中でも、羽振りはいい方でした。

 

 それなのに、母親は、お金目当てで自分に寄ってくる人間を、こりもせずに片っ端か

ら受け入れ、半ばだまし取られるようにして、たくさんあったお金は、いつの間にか、

すっかりなくなっていました。

 

 そうして、取り返しのつかない事態になってから、自分は金をだまし取られたのだ

と、村じゅうを、騒ぎ立ててまわりました。

 

 そのために、娘は、たいへん恥ずかしい思いをしたのです。

 

 そしてその後、さびしく弱い母親は、今度は、頼りになるからといって、何人もの男

を、おまえのお父さんだよ、と言っては、家に連れ込んできました。

 その母親のようすが、娘は、とてもいやでした。

 

 それで、楽しそうにしているかと思えば、そうでもなかったのです。母親は、夜にな

ると、よく、ひとりで泣いていました。

 

 そして、ものかげからそっとようすをうかがっている娘に気づくと、ぎゅっとしがみ

ついてきて、ああ、わたしにはおまえだけ、おまえだけなんだよ、愛しい娘、大切なわ

たしの娘、とわめき立てるのです。

 

 娘は、そんな母親が大嫌いでしたから、自分は、母のようにはなるまいと、かたく、

強く、心に誓っていたはずでした。

 

 ところが、気がつけば、いつしか娘は、母親と同じようなことを繰り返しながら、こ

れまで生きてきたのです。

 

 ですが、それを思うと不愉快になるので、娘はこのごろでは、そのことに目をそむけ

るようになっていました。

 

 しかしいま、脳裏によみがえった母の言葉で、娘は、突然、ひらめきました。

 

 「母さん。あたし、いまわかったわ。」

 

                             《第4話へ つづく》