自分と同じ顔をした姫が、思案に暮れたっきり、何も言ってこないので、娘は、いらだちを感じていました。
しかし、そのとき、ふいにまた、さっきのあの声が聞こえてきたのです。
「……おまえの、その顔。その顔に、隠そうとしても隠せない、高貴な血。だから、いつかきっと………。」
それは、病床にあって死にかけている、娘の母親の、最後の言葉でした。
もっとも、娘は、自分の母親のことをあまり好きではありませんでした。
なにしろ、あまりにも愚かすぎ、また、あまりにも哀れすぎたのです。
最初のうちは、そんなにお金に困っていた記憶はありませんでした。
むしろ、村の中でも、羽振りはいい方でした。
それなのに、母親は、お金目当てで自分に寄ってくる人間を、こりもせずに片っ端か
ら受け入れ、半ばだまし取られるようにして、たくさんあったお金は、いつの間にか、
すっかりなくなっていました。
そうして、取り返しのつかない事態になってから、自分は金をだまし取られたのだ
と、村じゅうを、騒ぎ立ててまわりました。
そのために、娘は、たいへん恥ずかしい思いをしたのです。
そしてその後、さびしく弱い母親は、今度は、頼りになるからといって、何人もの男
を、おまえのお父さんだよ、と言っては、家に連れ込んできました。
その母親のようすが、娘は、とてもいやでした。
それで、楽しそうにしているかと思えば、そうでもなかったのです。母親は、夜にな
ると、よく、ひとりで泣いていました。
そして、ものかげからそっとようすをうかがっている娘に気づくと、ぎゅっとしがみ
ついてきて、ああ、わたしにはおまえだけ、おまえだけなんだよ、愛しい娘、大切なわ
たしの娘、とわめき立てるのです。
娘は、そんな母親が大嫌いでしたから、自分は、母のようにはなるまいと、かたく、
強く、心に誓っていたはずでした。
ところが、気がつけば、いつしか娘は、母親と同じようなことを繰り返しながら、こ
れまで生きてきたのです。
ですが、それを思うと不愉快になるので、娘はこのごろでは、そのことに目をそむけ
るようになっていました。
しかしいま、脳裏によみがえった母の言葉で、娘は、突然、ひらめきました。
「母さん。あたし、いまわかったわ。」
《第4話へ つづく》