さて、お城に暮らす娘にも、井戸の底に生きる姫にも、等しく、三年の月日が流れました。
お城は、姫と、となりの国の、いちばん末の王子との縁談で持ちきりでした。
王とお后は、十八になった姫にふさわしいかどうかだけでなく、自分たちがそうであったように、さまざまな利益と不利益を、あらゆる状況や場合にあてはめてみて、最高に有益な相手を選んだのでした。
ところで、顔は瓜二つといえども、本当の姫と偽者の姫とでは、その気性や、持ち前の性格は、かなり異なっていました。
偽者の姫の性格は、たった三年の間にも、王やお后との間の親子関係に、微妙な変化をもたらしていました。
皮肉なことに、もし、本当の姫のままであったなら、縁談は、こううまくすすまなかったかもしれないのです。
もともと、王とお后は、自分たちの血を継ぐ姫のことを、あまりよく理解できていませんでした。
姫は、言葉少なく思慮に富み、それでいて、たいへん頑固なところがありました。
ふだんは、口ごたえなどせず、おとなしく言うことを聞いているのに、一度こうと決めたことがあると、てこでも動かなくなる姫を、困ったものだ、と思わないこともなかったのです。
それが、あのお祭りの夜から、何かがすっかり変わりました。
姫はとても明るく、うちとけてよく笑い、よくしゃべるようになり、それがまた、たいへん口が上手なものですから、王もお后もすっかり良い気分になって、つい、姫のペースにのせられてしまうのです。
王もお后も、いまだかつて、わが娘とすごす時間がこんなに楽しいと思ったことはないくらいでした。
そして、結婚相手が決まった話と、王とお后から、何かそれについて、意見や希望はないかと形式的にたずねられたとき、姫になりすましている娘は、目に涙を浮かべ、こう言いました。
「お父さま、お母さまには、本当に、感謝の言葉もございません。わたくしのことを、考えに考えて、選んでくださったお相手ですもの。気に入らないなどということがありましょうか。そんなことを考えただけでも、ばちが当たりますわ。ああ、わたくしは、お父さまとお母さまに、半分でもご恩返しができるのでしょうか?それを思うと、わたくしは、とても悲しくなるのです。ですが、ご期待には、きっとお応えいたします。この国の未来はもちろんのこと、最愛のお父さまとお母さまの幸福は、このわたくしが、命にかえてでも、きっと守りぬいてごらんにいれます。」
しかし、実際には、偽者の姫には、王とお后が選んだ結婚相手など、どうでもよいのでした。
もし、その相手のことが気に入らないのなら、ばれないように、家来に濡れ衣を着せるなどして、毒殺してしまえばよいのですし、ほかに気に入った男がいれば、その男と懇意になればよいのです。
家来や召使い、王族や貴族、芸術家など、多くの男の出入りがある城は、まさに、よりどりみどりでした。
そして、ひそかにその男の子どもを身ごもって、この国のあととりにしてしまえば、もっとよい機会と結果が、娘をおとずれることになるでしょう。
娘は、とにかく、自分の地位と財産さえたしかなものになるのなら、手段を選ばないつもりでした。
そのくらいの覚悟があったからこそ、本当の姫をだまして、井戸へ突き落とすなどという、大胆なことをやってのけられたのです。
《第10話へ つづく》