こうして姫は、たったひとり、しんと静まりかえった暗い城の底を、自らの記憶にたずねながら、さまよい歩きました。
そして、いくつもの小径と小部屋を通りすぎ、ようやく、王とお后がいるはずの広間の真下にある空間までたどりつきました。
あとは、広間の暖炉に続く細い階段をのぼればいいのです。
姫は、一度は柱のかげに隠れましたが、両親の姿が見えると、思わず、なつかしさのあまり、声を発してしまいました。
「ああ、お父さま、お母さま!」
突然の侵入者に、王とお后は驚いて、大声で、家来たちを呼びました。
姫は、あっという間にとらえられてしまいましたが、ひるまず、威厳を保って、言いました。
「放しなさい。わたくしは、この城の姫です。」
家来たちは、そのりんとした声に、思わずたじろぎました。
王とお后は、何をわけのわからないことを、と思いましたが、次の瞬間、その顔が、自分たちの娘とあまりにもそっくりなのに気がつき、すっかり仰天してしまいました。
姫は、家来たちにつかまれながらも、王とお后の前にひざまずいて、言いました。
「どうか、信じてください。わたくしは、正真正銘、あなたがたの娘です。十五のときの、あのお祭りの夜、わたくしは、お父さまとお母さまから離れたところを、わたくしと瓜二つの娘に誘われ、お祭りの終わりまでという約束で、その者と入れかわりました。ですが、その者は、わたくしを、森の古井戸へと突き落とし、かわりに自分が姫となって、この城へと入り込んだのです。あの者は、にせものです。そうして、その者がいま、わたくしのかわりに、この国の大事にかかわる事態を左右しようとしているのです。わたくしはその話を聞き、いてもたってもいられなくなり、何とか戻ってきたのです。」
折しもそのとき、騒ぎに気づいた偽者の姫が、広間へ現れました。
王とお后は、何が何だか、さっぱり理解できず、ただぽかんと口を開けたまま、目の前にひざまずいている者と、たったいま現れた、自分たちの姫であるはずの者の顔とを見くらべました。
そうして、見れば見るほど、自分たちの前で申し開きをする娘の顔は、高貴な血の輝きに満ちているように思われましたが、彼らはどうしても、その事実を認めたくありませんでした。
王とお后の間に生まれた姫は、たった一人であって、それが二人いるなどどいうことは、決してあってはならないことだったからです。
《第13話へ つづく》