召使いは、城にとどまろうとする姫を懸命に説得しつつ、失礼を承知の上で、むりやりに姫の手を取って、先へと進みました。
姫の足は、引っぱられるまま、力なく、前へと進みました。
「真実は、いつも、人間に遠い」。
姫は、オオワシの言葉を思い出しました。そして、どうしようもない苦しみに、じわじわと、胸をしめつけられるばかりでした。
そうして、姫と召使いは、とうとう、城壁の外へ出るあの石の前まで来ました。
召使いの男は、そこを開け、何か困ったことがあったら、いつでも自分の息子が力を貸すので、必ずたずねてほしいと言いました。
しかし姫は、城壁の内側から外側へと自分を送り出してくれた召使いの手を取り、真剣なまなざしで、こう告げました。
「どうか、よく聞いてください。大切なお願いがあるのです。あなたはすぐに村へ行き、あなたの息子さんとともに、なるべく早く、この国を出てください。わたくしを助けてくださったあなたと、あの信頼すべき、わたくしの可愛いお友だちには、それこそ、どうしても、生きていてほしいのです。でなければ、わたくしも、到底生きていくことはできないでしょう。」
召使いは、姫の気持ちに心を打たれ、言うとおりにすることを約束しました。
そして、それならば、ぜひ、姫にも一緒に来てもらいたいと言いました。
姫は、その親切な申し出に厚く礼を言いましたが、自分には行くべきところがあるからと言って、その誘いを丁重に断りました。これ以上、自分のことで、彼ら親子に負担をかけたくなかったのです。
この先、追っ手に追われることになったり、みつかってしまったときには、大変な迷惑がかかってしまいますし、また、村人の懐が、どんなに余裕のないものかも、いまの姫には、よくわかっていました。
そこへ、自分のような、何の役にも立たない者がついていって、煩わせるわけにはいかないと思ったのです。
召使いは、姫に言われたとおり、姫を送り出したその足で使用人部屋へむかい、こっそりと身仕度をととのえると、すぐ村へ行き、その晩のうちに、息子とともに村を出ました。おかげでこの親子は、追っ手が迫る前までに、無事、国をあとにすることができました。
一方の姫は、自分のあとからひたひたと近づいてくる者に、まだ気がついていませんでした。
《第18話(最終話)へ つづく》