他人の星

déraciné

帰ってきたウルトラマン『怪獣使いと少年』(1)

 

 最近、テレビで、『帰ってきたウルトラマン』を模した某ビール会社のCMを見た……からというわけでもないのですが、久しぶりに見たい、と思ったのが、本作でした。

 

「昭和」の原風景

 長身で、すらりとしたウルトラマンに比して、“日本人体型”の新マン(帰ってきたウルトラマン)、宇宙からやってきた超人とともに地球を守るチームとして、今ひとつリーダーシップと結束力に欠けるMAT、ウルトラマンやセブンにくらべて物足りないと言われがちなストーリー。


 ですが、この新マンの中に、私にとって、いろいろな意味で、強く印象に残る話の一つがあります。

 

 それが、第33話『怪獣使いと少年』です。(11月の傑作群、ともいわれていますね)。

 

 ウルトラセブンなどにもよく出てくるのですが、戦後の高度経済成長を遂げる日本の姿が、工事の音や、巨大な建物と重機、そして、高速道路、煙突からもくもく立ちのぼる灰色の煙、汚れた川などに象徴されて、表現されています。


 その川の、廃墟のそばで、一人の少年が、一心不乱に穴を掘っているシーンから、話が始まっていきます。

 

 少年、良くんの家は、北海道江刺市で、炭鉱が栄えた時代には、家族と暮らしていたのですが、炭鉱閉鎖とともに、一家は離散、孤独と飢えでさまよううちに、怪獣ムルチに襲われ、命を失いかけたところを、メイツ星から、地球の気候風土を調査に来ていたメイツ星人に救われて、ともに暮らすようになります。

 

 けれども、ごくふつうの生活を営んでいる人々にとって、廃墟のそばで穴を掘って暮らす、身寄りのない少年は、「不気味な存在」でしかなく、宇宙人ではないかというあらぬ疑いをかけられ、彼は、過酷ないじめに遭っているのです。


 この“いじめ”の描写には、容赦がありません。

 

 学ランを着崩した“不良”少年たちは、良くんが掘っていた穴に彼を入れ、その上から泥水をかけたり、犬をけしかけたり(この犬はメイツ星人の怒りによって、爆死させられてしまうのですが)、せっかく炊いていたおかゆをひっくり返しておいて、それを拾いあげようとする彼の前で、米を踏みつぶす、という、今ではまず、お茶の間に届けられる映像作品としては不可能であろう、人間の残忍さを真っ直ぐに映します。

 

 良くんが、食パンを買いに、商店街へ来たときも、パン屋の母親は、「あとでいろいろ言われるのが嫌だから」帰ってほしいと言うのですが、娘の方は、「うちはパン屋」で、どんな人にでもパンを売るのが仕事だからというみごとな“プロ意識”でもって、少年にパンを売ります。

 

 そこだけが、唯一、ほっとする場面で、あとは終始、暗い、不吉な空気が漂い続けます。

 

 おきざりになった、何ものかをかえりみる、などということとはまったく無縁であるかのように、走り去る電車と、赤信号。

 

 良くんと、メイツ星人が住む廃墟にぶらさがった、揺れる、首つり縄の輪。

 

 あたり一帯、どんよりした灰色の景色と、降り止まない雨。

 

 

 そして、良くんと廃墟で暮らすメイツ星人「金山さん」に会ったMATの隊員、郷(=帰ってきたウルトラマン)は、彼の身体が、地球の汚れた空気に蝕まれ、その余命が幾ばくもないことを知るのです。

 

                             《(2)へ つづく》