他人の星

déraciné

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第5話

 

 もちろん、かりにも王子たるものを閉じ込める部屋ですから、冷え冷えとした、鉛色の牢獄ではありません。

 贅沢のかぎりをつくして飾り立てられた広い部屋には、必要なものも、そうでないものも、何でもありました。

 王子のために、日々、豪華で美味な食事が運び込まれ、毎日のように、めずらしい贈りものが届けられました。

 部屋の中には、こぢんまりした舞台までありましたから、音楽を奏でる者、芝居をする者など、多くの旅芸人が呼ばれ、王子が退屈しないよう、おなぐさめするようにと命じられました。

 そして、王子が喜ぶ度合に応じて、相当の金品やほうびをとらせたのですが、なかには、このほうびのおかげで、芸の道に戻らず、一生遊んで暮らした者さえいたということです。

 

 しかし、王とお后のはからいや尽力にもかかわらず、王子は、しだいに元気をなくしていきました。

 

 どんなおいしい食事を前にしても、食欲はなく、そのからだはどんどんやせ細り、どんな素晴らしいものを贈られても、その心は、いつでも凍てつくように冷たかったのです。

 

 やがて王子は、胸を掻きむしるほどの痛みと苦しみに、息もできないほどになり、とうとう、重い病に倒れてしまいました。

 

 

 王子が深刻な病にかかり、明日をも知れぬ命であるという話は、またたく間に、国中に広がりました。

 王子の命を救うため、医師という医師、呪術師という呪術師、祈祷師という祈祷師が、国の内外から集められました。

 そして、ありとあらゆる治療法が試されたのですが、王子に回復のきざしは、まったく見られませんでした。

 

                             《第6話へ つづく》