他人の星

déraciné

『エレファント・マン』(1)

デヴィッド・リンチ”の“エレファント・マン”

 

 映画館で『ロスト・ハイウェイ』を見て以来、何となく、デヴィッド・リンチの監督作品が気になるようになりました。


 …とはいっても、観たのは、今のところ、テレビドラマ『ツイン・ピークス』と、映画『マルホランド・ドライヴ』ぐらいなものですが。(他のものも、これからぜひ、たくさん観たいと思っています)。

 

 ですが、むかし、話題になった『エレファント・マン』が、まさか彼の作品だとは、知りもしませんでした。

 

 映画が公開になった1981年当時、私は中学生でしたが、観てきたらしいクラスメイトが、ラスト・シーンについて話していたことだけ、覚えています。(ネタバレですが)。

 

 「眠ってて、死んじゃったんだって」

 「………ふーん……」

 

 それで、話は終わりました。

 

 それから何十年も経ち、『エレファント・マン』が、あのデヴィッド・リンチが監督した映画だと知るまで、興味をかき立てられることもなかったのです。

 

 

 モノクロで、約2時間程でしたが、その間、別段、時間が気になるような退屈さもなく、物語は、淡々とすすんでいきました。

 

 ですが、見終わったあと、何だか、何かが釈然としないような印象が残りました。

 


 監督が、あのデヴィッド・リンチで、『ロスト・ハイウェイ』の異世界感と、見る者を欺き、煙に巻き、あらゆる解釈を拒むような、スリリングな展開によって、私の中の、彼のイメージがつくられていたせいかもしれません。

 

 しかも、タイトルは、『エレファント・マン』です。


 きっと、主人公エレファント・マン(ジョン・メリック、本名ジョセフ・メリック)は、その怪物のような容貌のせいで酷い目に遭い、きっと、派手な復讐劇を遂げるのだと、的外れな期待をしていたせいもあるのでしょう。


 けれども、期待に反して、そうした、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの、血湧き肉躍るような派手な演出や展開は、一切ありませんでした。

 

 私は、その、しっくりしない感じを抱えたままで、その夜眠り、翌朝、ようやく気がついたのです。


 あの映画は、タイトルこそ『エレファント・マン』だけれども、少なくとも私にとっては、エレファント・マンの映画ではなかったのではないか、と。

 

 

 私は、自分の印象や感じ、考えなどに気がつくのが、驚くほど遅いのです。


 数分後、数十分後、数時間後というのはざらで、下手をすると、翌日、翌々日、一週間後、数年後、のこともあります。

 

 今回は、一晩かかったようでした。

 

 まだ、いい方でしょうか。

 

                             《(2)へ つづく》