ですが、そんなこととはいっさいかかわりなく、幼いころから優しく賢かった王子は、お城に帰ってくると、たちまちのうちに、多くの家来たちを、とりこにしてしまいました。
王やお后に近い座にいる者たちは、隣国の強さをよく知っていましたから、次期王のもとでの自分の身分や地位を確かなものにしようと、養子王子の肩を持ちました。
そんなわけで、お城は、王子派と、養子王子派の、まっぷたつにわかれてしまったのです。
しかし、お城の中が、こう混乱してしまったのでは、ただでさえ不安定な状況にあるこの国が、根底からゆらいでしまいます。
王とお后には、当然、血のつながりのあるわが子を次期王にしたいという強い思いがありましたが、国のためを思えば、もはやそれはできない相談でした。
姉君から加えられる強い圧力もあって、苦しい板ばさみの状態に耐えられなくなった弱い二人は、やがて、わが子を、世の安寧を乱すやっかいものとして憎悪することでしか、心の平穏を得られなくなってしまったのです。
そこで王とお后は、ひそかに、わが子を毒殺する計画を立てました。
いままで死んだものと思っていたのだ、帰ってきたのは夢であったと思えばよい、王はお后にそう言いました。
お后は、自分の腹を痛めて産んだ、美しく、愛しい息子のことを思い、涙を流しましたが、そうするしかないことは、よくわかっていました。
こんな状況では、何が起こってもおかしくない、もしかしたら、姉君の手下によって、王子が殺されてしまうかもしれない、ならばいっそ、実の親の手で殺してやる方が、子どもの幸せというものだと、王もお后も、そう考えることにしたのです。
しかし、ひとりの、年老いた召使いが、この話を、思いがけずきいてしまったのです。
《第14話へ つづく》