他人の星

déraciné

「死に至る病」

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       スライドガラス にのせた

       からだの 上で

       メスが 光る

 

       つんとした

       消毒液のにおい は

       苦手 だけれど

 

       慢性的な 胸苦しさ

       それに

       どこか 奥深いところからくる

       この疼痛の 原因は

       いったい 何なのか

 

       すっ と ひとすじ

       切り込みを入れる

 

       ぽたぽた と

       血のしずくが

       流れ落ちる

 

       神経みたいに

       細い 線状のものを

       ひとつ ひとつ

       切って 取り出しては

       顕微鏡を のぞき込む

 

       この 夢が いけないのか

       この 希望が いけないのか

       この 期待が いけないのか

       この 欲望が いけないのか

 

       それらは みな

       とても 美しい 言葉だ

       力ある 善き 価値だ

 

       そのはずだ

       そのはず なのに

 

       もし 片方の手でも 足でも 目でも

       それが おまえをつまずかせるなら

       「切って捨てよ」

       両手 両足 両目 のままで

       永遠の火に 焼かれるよりも と

       神でさえ 言っている

 

       だから

       細い血管のなかに

       小さな細胞のなかに

       もし かすかでも

       夢や 希望

       期待や 欲望が

       みつかった なら

       メスで 切り取り

       捨ててしまえ

 

       すっ すっ と

       切り込みを入れる

 

       ぽたり ぽたり と

       血のしずくが

       流れ落ちる

 

       ああ 生きていたのだ

       と 思う

 

       そのうち

       からだじゅうに

       夢や 希望

       期待や 欲望が

       転移して

  

       やがて いつの日か

       すべて

       捨てなければならない

       時が 来る

 

       生きていること 自体が

       重篤な 病 であるかの ように