他人の星

déraciné

ライムライト

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       「じゃあね ママ

       明日は きっと いい日

       失敗のない いい日」

 

       「そうね

       明日は きっと いい日

       失敗のない いい日」

 

       ママの声が 

       レモン・イエローの

       四角い あかりの中で 言う

 

       階段 降りて

       ぼくは

       ネオンサインの 涙(ドロップ)の中へ

       映画の中の エキストラ みたいに

       姿も 気配も 消していく                  

 

       ベッドの上で

       枕と毛布 抱いて 横になる 

       

       ああ ぼくの ママも

       同じことを いつも 言った

 

       そうね

       ぼうやが いい子にしてたら

       あすは きっと いい日

       失敗のない いい日

 

       「あすは きっと」を

       胸の内で つぶやかなくなった日が

       きっと

       おとなになった日

       いつしか ぼくは ここにいる

       やつれた 月の光が

       カーテンのすきまから のぞいてる

 

       ママは 言った

       そうね

       ぼうやが いい子に してたら

       次は ぼうやの番 と

 

       ぼくの番は 来ないと

       そう知った日が

       きっと

       おとなになった日

 

       そして ぼくは

       バーの ママに

       笑って 冗談めかして 言ったんだ 


       あしたはさ あしたから おれ

       ちゃんとやるんだ って 

 

       ママが 見てるから

       照れ隠しに ぼくは

       口先と 口尻だけを 動かして

       おとなぶって

       “ぼく” を “おれ” なんて言って 

 

       ころんだとき

       ほんとは 痛いのに

       平気ぶって みせるのと

       同じように ね