他人の星

déraciné

2月の空

 

 

       「すみません」 という 言葉を

       その場しのぎの 言い逃れ みたいに

       何度も 何度も

       言っている うちに

       いつしか 何の 味も しなくなる

 

       「すみません」

       すみません って 何だっけ

 

 

       「ありがとう」 という 言葉を

       背筋に 寒気がはしるほど

       ほんとうは 言いたくも ないのに

       幾度も 幾度も

       言っている うちに

       いつしか あたたかい も つめたい も

       わからなくなる

 

       「ありがとう」

       ありがとう って 何だっけ

       

        

       阿呆のように 口をあけていると

       冷気が 口から入って

       胸に つららの 洞窟ができる

 

       

       遠くに見える 山々の

       空の上には 分厚い雪雲

       冬の天気は きまぐれで

       澄み切って まぶしい空の青も 

       すぐに 消え去り

       薄ねず色の 空から 雪が舞うのだろう

       

       はるか上空

       かなしい声で 鳴きながら

       白鳥たちが 列を組んで 飛んでいく

       すっきりと うつくしい

       「く」の字を 描いて

 

       一瞬

       白い羽に透けて 青空が 見えた

 

       ああ いま きれいな まぼろしを見た と

       思った 瞬間

       うすく うすく 綿をちぎって 流すように

       ゆっくり ゆっくり 雲がひろがり

       ちら ちらと 雪が舞いだす

 

       あとに 残った 静寂に

       ひとり 思う

 

       白鳥たちの かなしげな 声

       あれだけは ほんとうだ 

       「かなしみ」だけは

       きっと ほんとうなのだ と

 

       

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