他人の星

déraciné

青い夢

 

 

       神々の 書架に

       はしごをかけた ふとどきもの

 

       どこまでも どこまでも 高くつらなる

       天井知らずの 書物の棚に

       いったい 何を 探そうというのか

 

       妖艶な 青い蝶が舞い

       神秘の 青い花が 咲き乱れる野を

       彼は 探しつづける

 

       人を誘う 森の 暗がりにも

       人を惑わす 湖の 深みにも

 

       泣きながら 笑い

       笑いながら 泣き

       声をからして 呼び 叫び 求め

       ついには 涙も かれ果て

       声も なくした

 

 

       神々の 書架に かけられた はしごを

       強く 荒々しく 風が 打つ

 

       あわれ 彼は

       真っ逆さま

  

       けれども

       それは けっして

       神々の いかり などではなく

       ただの 偶然

       運 のようなもの であって

 

 

       さっきまで 棚をつかんでいた 指先を 

       彼は

       あおむけに 倒れたまま 

       天に向かって 

       力なく のばす

 

       さがしていたのは

       おのれの 運命か

       それとも

       予言めいた 瑣末な

       未来の 日常か

 

       否、否………

 

       薄れる 意識のなかで

       彼は 思う

 

       愛 とは 堕ちること であったのか

       あるいは それとも……

 

 

       苦しみと 哀しみと

       怒りと 憎しみに満ちた

       おのれの 生を

       その 正体を

       いのちの 真実を

       さがしあてることも かなわず

 

       やがて 彼は 霧の向こうへ 

       静かに 旅立つ

 

       幸せの国に 青い鳥は いらないと

       きいたことが あったのに

 

       青い 蝶も

       青い 花も

       青い 鳥も

 

       ああ すべて すべて

       青 に みえる という 

       ただの 錯覚 であって

       真実

       まったく 青くはなかった というのに

 

 

 

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