他人の星

déraciné

マッチ箱の 夢

 

 

       マッチ 一本 擦って

       ぼくは

       一本の 缶コーヒーの 夢を 見る

 

       ジハンキ から 出たての

       熱い缶を 握りしめれば

       冷たい指先が じん とする

 

       そう

       ここが いつもの

       ぼくの 場所

 

 

       あの 幸せな マッチ売りの少女は

       星みたいに光る クリスマス・ツリー

       豪華な ごちそうを 夢見て

       さいごに

       大好きだった おばあさんの あたたかい胸に

       帰っていった けれど

 

 

       ねぇ ぼくだって 同じこと

 

       いまでは

       ポケットのコインが マッチ みたいな もので

 

       コインさえ 尽きなければ

       家だって 暖炉だって ごちそうだって

       どんな 夢だって 見られる というもので

 

 

       今朝 ぼくは

       ぼくの ジハンキの 傍に

       小さい スズメの 亡きがらを 見た

 

       雲 のように 雪 のように 真っ白な

       ふわふわした お腹を 上にして

       かわいい 顔して 静かに 眠っていた

 

       その 亡きがらは 誰のものでも なくて

       コインが 見せる 夢 でもなくて

 

       何か とてつもなく 大きくて

       まやかしなしの 何ものかだ と

 

       ぼくは 思った

 

       さっきより 少し 冷めた

       缶コーヒーの 白い ゆげの 中で

 

 

 

 

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