他人の星

déraciné

影法師

 

 

        道端に ぺたりと 座り込み

        泣いていた あの日の 午後

        力が ひとつも 残っていなくて

        そうするしか なかった あの日の 午後

 

 

        思い出せない

        思い出せない

        遠い むかし

 

 

        「わたし」 を演じる 「わたし」が

        もとは 何という名の

        どんな 「わたし」 だったのか

 

 

        いまの この名は

        役名に すぎず        

        いまの この かなしみは

        演技に すぎない はず なのに

 

 

        少しずつ かたちづくられ

        色づき 息づき 

        かぶりつづけた この仮面は

 

        どっぷりと 泥のなかに 埋まるように

        いつしか はずせなく なっていた

 

 

        影法師が わたしに 取って代わったのは

        いつの日 だった のか

 

 

        思い出せない

        思い出せない

        遠い むかし

 

 

        仮面の下の わたしは

        ほんとうは 誰 だったのか 

 

 

 

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