他人の星

déraciné

薔薇の舟

 

 

        淋しくて たまらない とき

        ぼくは きみの 名を 呼ぶ

        そして 思う

        名前 って べんりだ と

 

        恋しくて たまらない とき

        ぼくは きみに 「愛してる」と 言う

        そして 思う

        言葉 って べんりだ と

 

        でも 違う

        違うんだ

 

        かたち あるもの かたち ないもの

        すべて 言葉に できる なんて

        思いあがってる わけ じゃ ない

 

        

        きみの 名を 呼ぶ

 

        それは いつも ほんの 一瞬

        鮮烈な 色 だけを 残して 消えていく

        ありと あらゆる 何ものかを

        たった 一言

        きみの名で つかまえられる

        気が して

 

 

        「愛してる」 と 

        きみに 言う

 

        ぼくは 生も 死も 越えて

        愛の 永遠を 願う

        けれど それは いつも

        刹那で せつなくて

        かなしくて はかなくて

        美しい ものは こわれやすい と

        ぼく ではない ぼくが

        よく 知って いる から 

  

       

        だから         

 

        この 心臓を 剣で 刺して

        水面(みなも)が あかく 染まったら

        船出 しよう

 

        目の くらむほど

        あかい あかい

        薔薇の 花びらを 散らした 小舟 で

        きみを むかえに 行くよ

 

        だから

 

        もうすこし

        もうすこし だけ

        待っていて

 

        かならず むかえに 行く から