他人の星

déraciné

「無神経」

 

 

        「食べなくて いい って 思っちゃうんだ」

        と 彼女は 言った

 

        もう 私を 攻撃しないで と

        笑顔で 守る 細い からだ は

        秋の陽に 透ける 蜘蛛の巣 みたいに 消えそうで

        わたしは その手を とりたく なった 

 

        けれども それは

        彼女の もの ではなくて

        わたしの 淋しさ だから

        わたしは わたしを 後ろ手に 縛った

 

        それでも 口は 勝手に 動く

        「食べて」「食べなきゃ」 なんて くどくど と

        やがて わたしが わたしに 苛立ち

        「うるさい」 と 怒鳴る

   

 

        静かに 絶望 していることに 気づかず

        ただ ただ そこで 微笑んでいるひとに

        「死なないで」 などと 物騒な言葉を かけることが 

        どういう こと なのか 

        疑いもなく いいこと なのか

 

        わたしには わからない

 

        時を 待たず

        死へと 足早に 近づいて いこうとする ひとに

        「生きて」 と 言いたく なるのは いつも

        どこか ひどく 機械的で 自動的で

 

        命 見捨てた 「人でなし」 よばわり されるのが

        そんなに こわい のか

 

        あるいは

 

        わたし だって 苦しいんだ

        あんただけ 逃げる なんて 許さない という 羨望か

 

 

        幸せへの 道のりが かかれた 地図も

        愛 という名の たからものが 隠された 秘密の暗号も

        手渡せない どころか

        自分だって もっていない 人間が

 

        どうして ひとに

        「死ぬな」 などと 言える のか