他人の星

déraciné

劇中劇

 

 

       誰かの 過去が 流れる

       映画の シーン

       モノクローム の モノローグ

 

       セピア色 って 名前が素敵 と思ったら

       由来は イカスミだと 知って

       何だか 妙にかなしくて 笑った日

 

 

       子どもの とき 

       うちあげられた 落下傘花火を

       必死で 追いかけた

 

       けれど

       わたしは決して 無邪気 なんかじゃ なかった

 

       風は 気まぐれ

       落ちてくる 落下傘を 受けとめたくても

       それは 風向き 次第

       わたしの存在には 力が無い

 

       ただ 翻弄されるだけの

       運命 とは そういうものであることを

       どこかで わかっていた

 

 

       濃い 紅色の ツツジの花が あまりに 愛おしくて

       胸が痛いほど 焦がれて 憧れて

       すべてが 欲しくて たまらなくても

       ツツジの花が

       決して わたしのものに ならないことも

       わたしが ツツジの花と 一緒に なれないことも

       わかっていた

 

 

       おとなになった わたしは

       もう 手を のばさない

 

       欲しかったものが この手を すりぬけるとき

       わたしの手を 切りつけて

       血を 流させる

       その 痛みに

       いいかげん うんざり してしまったから

 

 

       映画が 終わって 映画館を 出ても

       映画の つづきは 終わらない

       映画館の 映画より ずっと いじわるな

       ノンフィクション

 

       否 

 

       ノンフィクション と みせかけての

       結局 フィクション 

 

 

       風に 流されるだけの 落下傘

       幾日か 咲いたら 枯れる ツツジの花

 

 

       まぼろしを 追いかける 日々

       もし いやになって しまったのなら

       非常口から さあ

       どうぞ 外へ

 

       いつでも 開いている

       あの 非常口 から

       外へ