他人の星

déraciné

happy-go-lucky

 

 

        「人ごみは 苦手」 なんて

        言ってた くせに

        なんで 来ちゃったかなあ

        正月 三日目の 初売り ショッピングモール

 

        実は かっこつけてた だけなんでしょ

        人が 多いの なんて 

        本当は そんな 気になりも しないのに

 

 

        ただ ただ 疲れて

        人が大勢 上り下りする エスカレーター

        その傍の 椅子に

        くったりした ぬいぐるみ みたいに 座っていると

        いろんな 声が 断片が きこえてくる

 

 

        「疲れた もう 帰ろう」

 

        妻が 夫に 話しかける 中年の夫婦

        夫は まだ 楽しみたかった みたいだ

        けれども

        妻の言葉に 「帰ろう」 と 言葉を 返した

 

 

        「お年玉 もらったんだから 欲しいもの 買わなきゃ」

 

        父が 息子に 言った

        けれども

        きっと 幼なすぎて 彼には まだ

        自分の 欲しいものが わからなかった みたいだ

 

 

        白髪の 母親の 車椅子を 押して

        靴屋に 入っていった 老いた母娘は

        ほどなく 店から 出てきた

        おばあさんの 欲しい靴は みつからなかった みたいだ

 

 

        エスカレーターで 上り下りする 人々には

        不思議な 規則性があって

        あふれんばかりに たっぷりと 

        すべての階段を 満たしていることも あれば

        一人 二人も 乗っていない ことも ある

 

 

        思い思いの 色と デザインの 紙袋を

        思い思いに 二つ 三つ 四つと 手に ぶらさげて

        帰るのだろう これから 思い思いに

        それぞれの 家へ

 

        「家族」 という 絆しの 束ごとに

 

 

        食卓の 明かりは 

        昼白色 それとも 昼光色

 

        どんな においのする 

        どんな 空間で すごすの だろう

 

  

        それぞれが まとっている

        背景が 色が 空気が 時間が

        違うから 

 

        それを 思うと

        とても とても こわくなるのは

        どうして だろう

 

 

        エスカレーター 傍の 椅子の上で

        人知れず こわがっている

        わたしが 

        押し流される 時間の先で

 

        いま 見ているものと

        あとから 思い出すものとで

        いったい どちらが

        「夢 みたいだ」 と

        思うの だろう