他人の星

déraciné

ワイナリー

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       「そりゃ むかしは
 

       大酒も 飲んださ」

 

 

       時計うさぎは
 

       赤い眼で 言う

 

 

       「ぼくは 下っ端で

     

       安酒 しか


       飲めなかったけど

 

 

       ほんとは

 

       広くて 大きい
 

       ぶどう畑 が 欲しかった

 

       ぶどうは 欲しいだけ
 

       きみに あげる
 

       もっていって いいよ
 

       なんて
 

       太っ腹なこと
 

       二つも 三つも 言ってさ

 

 

       ぼくは ただ

     

       あの
 

       すてきに ふくざつ な


       ぶどうの つたの下を


       全力で


       駆けてみたかったんだ

 

       爽快 だったろうな
 

       この上なく」

 

 

       時計うさぎは


       ふいに


       うつむいて

 

       時計を見る

 

 

       そして


       嘲笑を漏らす

 

 

      「これはね クセだよ
 

      いやになるね」

 

 

      いまや

 

      アンティークで

 

      動きもしない

 

      古くて さびた
 

      懐中時計を
 

      捨てようにも 捨てられず

 

      じっと みつめる
 

      ただの
 

      酔いどれ うさぎ

 

  

      あくび ひとつして
    

      赤い眼を しばたたく

 

 

      「むかしは
 

      あったんだ
 

      そんな夢 が さ」

 

 

      たったひとつ
 

      残された
 

      ねむり という
 

      つかの間の
 

      広くて 大きい

 

      野原に 落ちて

 

      ただの
 

      野ウサギに なって

 

 

      いま どこを
 

      駆けているのやら