他人の星

déraciné

2020-01-01から1年間の記事一覧

『リリーのすべて』(3)ーわたしの中の、“火掻き棒”ー

“あぁ、カン違い” 漫画『サザエさん』の中に、とても興味深いエピソードがあります。 カツオくんが、交通量の多い大通りに面した歩道を歩いていると、同じ学校に通う女の子に出会います。 「ア!! 一組の岡さん」 岡さんは、言います。 「アラ このへんはじめ…

Let's Dance

踊れ 踊れ お人形さん この世は 楽しい ダンスホール きみは どっち ダンサー それとも ダンスホール ダンサーは もちろん 花がた スター どんな 床でも 思いのまま 難しい ステップ きめて すべるように 華麗に 踊る ごらん 彼が 踊る ダンスフロアを おび…

『リリーのすべて』(2)ー「わたし」を生かすもの、あるいは、「殺す」ものー

雪だるまの“恋” アンデルセン童話の中に、『雪だるま』というお話があります。 雪だるまは、外から見える家の中のストーブが、赤々と、時折、ちらちらと炎の舌を見せながら燃えるのを見た途端、なんとも妙な気持ちになり、胸が張り裂けそうになるのです。 “…

涙の お池

おなかが すいた ハンプティ・ダンプティ 小さな お庭の 塀に 座って 食べもの といえば 自分の 涙 だけ くる日も くる日も ひっきりなしに 泣き続けた ものだから 涙は やがて 小さな お池に なった ある朝 まぶしい 太陽と 真っ青な 空が お池に 映って ハ…

「メンドクサイ」

「ねぇ めんどうに なったんでしょ あたしのこと あたしだって あたしのこと めんどくさい もの」 けだるそうに 目をほそめ むくれて 窓のそと 行き交う人を 見るともなしに 見ている きみの 白い 頬が まぶしい 斜陽の いたずら 「だから もう いいじゃない…

「息を して」

熱く 冷たい 砂浜を ただ ひたすらに かけていく 足を とられ 息を 切らし 高く 深い 砂丘で ただ ひたすらに もがきつづける のぼっているのか 落ちているのか わからずに 「こころ」「からだ」「たましい」 呼び名など どうでもいい ただ あなたの その頬…

『リリーのすべて』(1)ー「自分」でいようとすることが、どうしてこんなにも難しいのかー

「ごめんなさい」「すみません」は、最大の防御 つい、一週間ほど前のことでした。 バスの中で、女子大生が2人、そこそこの声量で(少なくとも、車内の人全員に、話の内容がすっかりわかるくらいの)、(マスクをして)、おしゃべりをしていました。 「コロ…

逢魔時

生者と 死者が 行き交う その刻 闇の 重さに ねじ伏せられて 太陽は 決して 明日を 約束しない 「金色(こんじき)の麦 この胸 いっぱいに 積んだら 帰ろう」 と それが ただの書割だと 気づく頃には もう 遅い 頭上に 迫る 黒雲と 稲光 カラスの群れが 最後…

星月夜

ぼんやりと 目が かすんだように 世界の 何もかもが 二重にも 三重にも にじんで 見えることが ある きのうまで つい 一瞬間前までは はっきりと しっかりとした そのかたちにしか 見えなかったものが 光 でさえ 闇 でさえも もはや わたしに 親(ちか)しく…

アーサー.C.クラーク 『幼年期の終わり』(3)―苦しい「個」の生は、いったい何のために?―

過ちは去りゆく……… この間、何気なく、テレビ(いずれ去りゆく運命にあるじじばばメディア、と私はよく、パートナーに言っていますが)を見ていて、いまさらのように気がついたことがありました。 そうか、「過去」とは、「過ちが去る」、と書くのだっけ……… …

アーサー.C.クラーク 『幼年期の終わり』(2)―ヒトがヒトの正体を知らなさすぎる、という謎―

数週間前の土曜の夕食時、テレビを見ていて、思わず、カレーを食べる手が止まりました。 見ていたのは、NHK・Eテレの『地球ドラマチック』で、『ハッブル宇宙望遠鏡~宇宙の謎を探る30年間の軌跡~』です。 ハッブル宇宙望遠鏡は、宇宙が始まったばかり…

アーサー.C.クラーク 『幼年期の終わり』(1)―ヒトの戦争好きは、ヒトの幼きゆえなのか―

昨年8月、NHK・Eテレの『100分で名著』、ロジェ・カイヨワの『戦争論』が取り上げられたとき、指南役の西谷修氏は、「現代(いま)は、冷凍庫の中で戦争しているようなもの」、と言いました。 私は、なんてうまい表現だろう、と思いました。 あるいは、…

日暮らし

でこぼこした 熱い アスファルト とおり雨が 残した 気まぐれな 水たまり 泥水の 上にも まぶしい 太陽が 反射して 直視 することは できない ヒグラシが 鳴く 晩夏の 夕暮れ 落ちくぼんだ 道端に からからに なって 上向いた ブローチみたいに 完璧な セミ…

ウィリアム・ゴールディング『蠅の王』(6)―なぜ人は、“人間らしさ”=優しさやあたたかさ、思いやりだと思うのか?

人間は、そんなにいいものか? 「いったいみなさんは、人間の本性に利己主義的な悪が関与していることを否定する義務を感じなければならぬほど、上司や同僚から親切にされたり、敵に義侠心を見出したり、周囲からねたまれずにいたりしているのでしょうか。」…

ウィリアム・ゴールディング 『蠅の王』 (5)

“そのとき”が来るまで、誰も気づかない さて、ここからは、再び、ネタバレになりますので、ご注意ください。 前回ふれた、少数派は「悪」とみなされやすい、という人間心理の傾向は、『蠅の王』の物語でも、その後の少年たちの行動に徐々に影響を及ぼし始め…

ウィリアム・ゴールディング 『蠅の王』(4)…にかこつけて、「マスクするのしないの云々かんぬん」について

「ラーフは他の所を通らず、この固くなっている一条の砂地の上を歩いていった。考えごとをしたかったからである。この砂地の上だけしか、足に気をとられずに自由に歩ける所はほかになかった。波打ち際を歩きながら、彼はあることに気づき、愕然とした。この…

鈍色の まぶたの 間 から 線香花火 のような 太陽 が 顔を 出す 黄色く 濁った そのひとみは わたし あるいは ほかの誰かが 死んでも いちべつも くれは しない みずからの 重みと 熱と まぶしさ に せいいっぱい だから 風が どこから か 甘い 花のかおりを…

ウィリアム・ゴールディング 『蠅の王』 (3)

「仮面」は、「顔」を奪う ここからは、ネタバレを含みますので、ご注意ください。 少年たちから、「投票」という民主的な方法で、みんなのリーダーに選ばれたラーフ。 そして、誰よりも自分こそリーダーにふさわしいと思っていたのに、ラーフに負け、狩猟隊…

雨あがり

幼い きみは たどたどしく 二本の 足で 歩いていく 草原で すっくと立った あの日から ヒトは 大地と はなればなれになった その 運命を 小さな からだは もう 知ってる 伸びたつる草も 生い茂る緑の とがった葉っぱさえ まだ 脅威だ というのに 小さいきょ…

ウィリアム・ゴールディング 『蠅の王』 (2)

“無意識の偽善者” いま、ちょうどNHKで、『未来少年コナン』というアニメが深夜に再放送されています。 言わずと知れた、あの宮崎駿監督が手掛けた1978年の“名作”ですが、私は、あの中に登場する美少女「ラナ」が、あまり好きではないのです。 彼女の祖父は…

ウィリアム・ゴールディング 『蠅の王』 (1)

“過去は未来に復讐する” 地震は、もとの地形をあぶり出してしまうそうです。 たとえば、もとは湖沼だったり、河川だったところを埋め立てた場所は、どんな強固でゆるがないように見えても、ひとたび地震が襲えばたちまち液状化し、建物の土台をずぶずぶ飲み…

映画『追想』(3)

「ねえ ダーリン 世の中には セックスに過剰に何かを求める 悲しい人たちが 多すぎるわ」 岡崎京子『3つ数えろ』 「あなたの欲しいものは あなたの所有していないものである」 「セックスが我々を救ってくれない今、いかなる衝動が我々を救ってくれるのか?…

映画『追想』(2)

かくも凶暴な… 「恋愛は 流動的なもの オリジナリティなもの 常に個人の力仕事よ つまり 世相という 道徳観念に もたれかかった 恋愛はけっして たくましくなれない ってことなのよね」 大島弓子『水の中のティッシュペーパー』 いわゆる「24年組」と呼ばれ…

映画『追想』(1)

「人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのは莫迦莫迦しい。重大に扱わなければ危険である」 芥川龍之介『侏儒の言葉』 大好きな言葉です。 人生をあらわす言葉として、私は、これ以上の表現に出会ったことはありません。 芥川は、本当にすごいな、頭が…

想い

誰かが つくった 歌を うたい ぼくは 珈琲の 豆をひく ぼくの 耳に ぼくの 声 ぼくは ぼくの 歌声になり それから ごりごり 豆が すれる 音 になる そして そう遠くない どこかで きこえる ピアノの音 になり やがて 電車が 線路を轢きつつ 走っていく 音に…

Pavlov dog

むきだしになった 唾液腺が 呪わしく 狂おしく 反応する その あらわで あからさまな 欲望と 渇望は 見世物小屋の どんな見世物よりも 奇異で あわれで 真実で いま 鳴るか いつ 鳴るか 主人がならす ベルの音を かたずを飲んで 待っているのは 牡蠣 のよう…

シュルレアリスム

少し 前まで は いくばくかの 静寂があった たとえば 信号が 変わる 瞬間 「まて」 が 「すすめ」 に変わる 一瞬 それが いまでは シュルレアリスム それは 彼岸 のものか それとも 此岸 のものか あるいは 無意識に のぞき見る 自らの 深淵から 響くものか …

Phantom

胸に 幾何学模様の ひびが入る ガラスが 割れて 冷たく光る 小さな破片が 体じゅうに 突き刺さる 世界へ向かって 愛を叫ぶのにも すっかり 疲れて しまった 一瞬の 風にしみる 涙も 痛みも 苦しみも きっと 知らぬ間に 胸に 巣喰った 化けものの しわざだ と…

人を死に至らしめるもの(3)

“呪われた”人 「人間は、仲間の見えるところにいるのを好む群居動物であるだけでなく、仲間から認められたい、しかも好意的に認められたいという生得的な傾向をもっている。社会のすべての成員から、そっぽをむかれ、注意を払われないことほど、残忍な刑罰は…

人を死に至らしめるもの(2)

“さあ と私の『魂』は言った 私の『からだ』のために歌を書こう 私たちはひとつのものだ もしも私が死んで 目には見えぬ姿となって地上に戻り あるいは遙か遠い未来に 別の天体の人となり ふたたび歌い始める時があれば いつも微笑みをたたえて歌い続け 永遠…