星月夜
ぼんやりと 目が かすんだように
世界の 何もかもが
二重にも 三重にも
にじんで 見えることが ある
きのうまで
つい 一瞬間前までは
はっきりと しっかりとした
そのかたちにしか 見えなかったものが
光 でさえ
闇 でさえも
もはや わたしに 親(ちか)しくはなくて
夜露のように
世界は 地平線に
はかなく とけて 消える
ああ これが ほんとうなのかもしれない と
思ってみようと する けれど
悲しみを 知るためだけに
苦しみを 知るためだけに
憎しみ 憤り
せつなく むなしく
この身を のろい
世界を のろう
そのためだけに 生まれてきたのかと
すすり泣く 声がして
寄る辺なき この身が
打ち寄せられ 迎え入れられる 浜辺を
あきらめ 遠ざかる
ときには
ひとつの うたに 音楽に
ひとつの 筆先に 声に
その 魂の憩う 岩礁に
しばし 指先を あずけたら
また 漂っていかなければならない
荒れた 海の上を