他人の星

déraciné

胸いっぱいの 愛を

 

 

       風が吹く夜

       彼は ひとり 

       空き地で ボールを 蹴っている

 

       ほんとうは 小さい彼を

       街灯のあかりが 

       大人のように 大きくする

 

       昼間の光の下にも 彼はいて

       こっそりと

       風が揺らす 枝葉の木陰で

       うかれ 遊び

       ひっそりと

       いじわるな 皮肉を言っては

       くすくす 笑う

 

       「ね きみは 知らないだろう

       たすかるために おぼれるってこと」

 

 

       しんとした 夜の真ん中で

       いまも

       ボールを蹴る音が きこえる

       音だけを あとに残して 飛んでいく

       夜更けの ジェット機のように

       どこか かなしく せつなく

 

       街灯の下の 長い影

       彼は 遊び うかれ 

       皮肉を言って くすくす 笑う

 

       どんな光も 及ばない

       果てなく広い 闇の すみっこで

 

 

 

f:id:othello41020:20210718175309j:plain