真夏の 日盛りに 葬列を 見た
標本のように 完璧な セミの幼虫が 地を這っている
と 思ったら
それは 黒々とした 小さい蟻が 無数にたかって
少しずつ 少しずつ すすんでいく そのさまであって
きみの いのちは もう ないのだった
大事な 大事な 食糧を
蟻たちは
そろり そろり
ゆっくり ゆっくりと はこんでいく
「食べること」は 「愛すること」だから
すべて 残さず 丸ごと 食べて
自分の ものに すること だから
ねぇ ところで きみ
世の中から 門前払いされた きみは
何も 思いは しないのかい
羽化への道は 厳しくて
成功率も 低いそうじゃないか
落下して 力尽きて死んだ きみの すぐ上の木々
みんな 騒々しく 鳴いているよ
ああ 恋しい 恋しい
愛しい 愛しい きみよ
ぼくを 愛してくれ 愛してくれ と
一声も 鳴けなかった きみの 亡きがらの上で
不謹慎にも くるおしく
めくるめく 恋の快楽を 謳歌しているよ
ねぇ きみ
うらめしくは ないのかい
にくくは ないのかい
かなしくは ないのかい
もし ぼくならば ぼくならば
うらんで にくんで かなしんで
この世なんて 滅んでしまえと
願うかもしれない っていうのにさ