他人の星

déraciné

帰ってきたウルトラマン『悪魔と天使の間に……』(3)

危険な“善意”

 

 一方、病院では、輝夫に付きそう美奈子が、輝夫のベッドの上に、紙の花をちりばめて、眠っています。

 彼女の、“漂白されたような善良さ”を感じさせる場面です。

 おそらく彼女は、他人、とくに、“弱者”には優しく親切にするよう、伊吹から教えられているのでしょうし、父親である伊吹が喜ぶことだからこそ、すすんでそうするのです。

 

 しかし、輝夫は、ランドセルの中に隠された、怪しげな機械を操り、たまたまそれを見られた看護師を殺してしまいます。

 

 何も知らずに眠る美奈子は、まさか、自分のすぐそばでそんなおそろしいことが起きていることなど、知りもしません。

 文字どおり、彼女は、自分の善意で折り上げた花に囲まれて、眠ったままなのです。

 

 そして、郷の予言どおり、怪獣プルーマが、病院に出現します。

 

 患者を避難させるため、大騒ぎの病院の中で、それでも美奈子は、姿が見えなくなった輝夫を探します。彼こそ、親と世間へ向かって、自分の善良さを証明してくれる存在だと、信じ切っているのです。

 子どもは、生まれたときから、親のもとで、どうしたら、人間社会の仲間に入れてもらえるのか、周囲からほめられ、認められるためには、どうしたらよいのか、学びます。死につながるような孤立や疎外を避け、身の安全を守るためです。

 

 彼女は、知るべきことを知らない(おしえられていない)せいで、自分の身に危険が迫っているなど、思いもしません。

 

 そうして、郷は、ついにウルトラマンに変身し、囮怪獣プルーマに勝利しますが、ブレスレットを操られ、輝夫少年が言ったとおり、危機に陥ります。

 

 「ウルトラマンがピンチに陥ったら、あの少年を捕まえてください。」

 

 伊吹の頭の中で、郷の言葉がこだまします。

 

 病院の建物をふり返り、何かの気配を感じ取ろうと、仰ぎ見る伊吹隊長。

 

 彼が、娘を思う父親から、地球を守るMATの隊長に戻った瞬間だと思います。

 

                             《(4)へ つづく》