危険な“善意”
一方、病院では、輝夫に付きそう美奈子が、輝夫のベッドの上に、紙の花をちりばめて、眠っています。
彼女の、“漂白されたような善良さ”を感じさせる場面です。
おそらく彼女は、他人、とくに、“弱者”には優しく親切にするよう、伊吹から教えられているのでしょうし、父親である伊吹が喜ぶことだからこそ、すすんでそうするのです。
しかし、輝夫は、ランドセルの中に隠された、怪しげな機械を操り、たまたまそれを見られた看護師を殺してしまいます。
何も知らずに眠る美奈子は、まさか、自分のすぐそばでそんなおそろしいことが起きていることなど、知りもしません。
文字どおり、彼女は、自分の善意で折り上げた花に囲まれて、眠ったままなのです。
そして、郷の予言どおり、怪獣プルーマが、病院に出現します。
患者を避難させるため、大騒ぎの病院の中で、それでも美奈子は、姿が見えなくなった輝夫を探します。彼こそ、親と世間へ向かって、自分の善良さを証明してくれる存在だと、信じ切っているのです。
子どもは、生まれたときから、親のもとで、どうしたら、人間社会の仲間に入れてもらえるのか、周囲からほめられ、認められるためには、どうしたらよいのか、学びます。死につながるような孤立や疎外を避け、身の安全を守るためです。
彼女は、知るべきことを知らない(おしえられていない)せいで、自分の身に危険が迫っているなど、思いもしません。
そうして、郷は、ついにウルトラマンに変身し、囮怪獣プルーマに勝利しますが、ブレスレットを操られ、輝夫少年が言ったとおり、危機に陥ります。
「ウルトラマンがピンチに陥ったら、あの少年を捕まえてください。」
伊吹の頭の中で、郷の言葉がこだまします。
病院の建物をふり返り、何かの気配を感じ取ろうと、仰ぎ見る伊吹隊長。
彼が、娘を思う父親から、地球を守るMATの隊長に戻った瞬間だと思います。
《(4)へ つづく》