すると、王子の瞳に輝きが戻り、傍らにいる娘に気がついて、口を開きました。
「………おお、そなたは、わたしの美しい人ではないか。」
娘は、涙を流しながら、言いました。
「王子さま。わたしが、おわかりになるのですか。あなたさまは、十年の歳月を経て、よみがえられてもなお美しく、光り輝いておいでになる。けれどもわたしは、ずいぶん、くたびれ果ててしまいました。」
「いいや。そなたのハシバミ色の瞳は、まったく変わっておらぬ。それどころか、なお深みを増して、まるで、そなたの心そのもののようだ。……そなたが、わたしを助けてくれた、そうなのだろう?」
娘は、その問いに、「はい」とも、「いいえ」とも答えられずに、泣き出してしまいました。
「美しい人よ。なぜ、黄泉(よみ)の国から戻ったわたしに、あの美しい微笑みを、見せてはくれぬのだ?」
「……王子さま。そうしたい気持ちでいっぱいで、この胸は、いまにもはちきれてしまいそうでございます。ですが、いまのわたしには、それができないのです。」
「なぜ?」
「わたしは、もうすでに、一生分の喜びと幸せと満足を、失った女だからでございます。」
「ああ、なぜ、そのようなことに?………まさか、そなた、あの東の森にすむという、邪悪な魔女と、何か、あやしげな約束を交わしたのではあるまいな?」
「心苦しうございます、王子さま。おっしゃるとおりでございます。」
娘は、苦しみのあまり、地にひれ伏し、身動きできなくなりました。
「なんということを………」
王子は、まっすぐな気性のもちぬしだったので、曲がったことやずるいことが大嫌いでした。
そのため、あんなにも愛しかった娘のことを、いいえ、とても愛おしく思っていたからこそ、どうしても、娘の穢れた行いが、許せなくなりました。
「いますぐ、ここを去れ。そなたの顔など、もう見たくもない。」
あんなに会いたいと、夢にまで見た王子からそう言われ、娘の胸は、はりさけんばかりでした。
娘は、王子の命のために、自分の喜びと幸せと満足を投げ出すことをためらってしまい、一度は王子を死なせてしまったといううしろめたさから、ことの顛末を語ることができなかったのです。
もし、いま本当に、胸が裂けて、死んでしまえたら、どんなに幸せだろう、と思いながら、娘は、どんなに泣いても泣ききれぬほどの涙を流し、王子のもとを去りました。
《第12話へ つづく》