他人の星

déraciné

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第12話

 

 さて、死んだはずの王子が、世にも美しくりりしい若者の姿となって戻ってきたために、お城は、上を下への大騒ぎになりました。

 当然、王子は死んだものとして、国のまつりごとがすすめられていたのですから、たまったものではなかったのです。

 

 
 王子以外に子のなかった王とお后は、王子が亡くなると、さっそく養子縁組をして、新しい王子を得ていました。

 ですから、わが子が冥土から戻ってきた喜びよりも、困惑と混乱の方がまさっていました。

 それというのも、養子縁組のために、国そのものの未来を変えてしまうような、とても重大な約束を、相手方と取り交わしていたからなのです。


 実は、王とお后の養子となった王子は、王の姉君の息子でした。

 王の姉君は、自分にふたりいる息子のうちのひとりをゆずる条件として、どんなことがあろうとも、その子を次期王とすること、そして、王の地位と財産のすべてを、その子に継がせること、さらに、この国のまつりごとの権利の半分を、自らの夫のものとすること、の三つを提示したのです。

 

 王とお后は、ほかに養子をもらい受けるあてもなく、国の存続のために、これらの条件をのむしかありませんでした。


 もしそのようなことが何もなかったなら、王とお后は、死んだと思っていたのに生きて帰ってきたわが子を、涙にむせびながらその胸にかき抱き、喜んで迎えたことでしょう。

 しかし、誰よりも、国の未来に責任をもたねばならない身分であるゆえ、それができなかったのです。

 

 なにしろ、姉の夫を王とする隣国は、姉君が嫁いだころからぐんぐん勢力を拡大し、いまや、いくつもの国々を支配下におく強大な国となっていました。

 

 姉君の夫からすれば、隣国の王が妻の弟であるからこそ、格別の配慮と温情をもって、何もせずに見守っているのですから、もしも王が、姉君の気に入らない行いをすれば、ただちにいくさになってしまいます。

 

 もしそんなことになれば、大した武力をもたないこの国は、罪のない多くの民衆とともに、完全に滅ぼされてしまうことでしょう。

 

                            《第13話へ つづく》