一方、王子と娘は、王子の傷が癒えるとすぐに、遠くの国へと旅立ちました。
そして、王子と娘のことを誰も知らない地で、ささやかな結婚式を挙げ、ふたりはふつうの村人として、幸せな日々を送りました。
それから二年ばかりがすぎたころ、それはそれは美しい男の子をさずかりました。
深い瑠璃色の瞳と、金色の巻き毛は、王子にそっくりでした。
王子が死んだとされてから、三年がすぎたころでしょうか。
王子の故国では、年老いた王に変わって、養子王子の戴冠式が、おごそかに執り行われました。
そして、王の姉君、つまり新しい王の母君おかかえの占師がよばれ、あらんかぎりの幸運と力にめぐまれた王の繁栄、その予言と賛美をささげるはずでした。
むろん、占師だけではありません。
老いた王もお后も、王族の者たちや、家来たちも、多くの人が、これで隣国との絆もたしかなものとなり、ますますの発展と安寧が約束されるだろうと、おおいに期待していました。
ところが、占師の予言は、おだやかなものではありませんでした。
王の幸運と繁栄は、強運の持ち主であるもうひとりの王の存在によって、影がさしている、それをとりのぞかなければ、この国に、とてつもない不幸がもたらされる、と言ったのです。
この不吉な予言に、老いた王とお后は、三年前、今度こそ、本当に死んだはずの息子のことが頭に浮かび、愕然としました。
それは、たったいま王に即位した養子王子も同じことでした。
こうした次第によって、新しい王の最初の仕事が決まりました。
王は、ただちに、国じゅうを、くまなくさがさせましたが、王子らしき人は、どこにもみつかりませんでした。
そこで、いまは自らの兄が王座についている隣国に協力をたのみ、あちらの国、こちらの国へと使者をおくって圧力をかけ、王子をみつけ次第、即刻殺すようにとの命令を出しました。
それから二年もの月日が立ったとき、とうとう、それらしき人物を見たとの知らせがもたらされました。
そんなことは知るよしもなく、ふつうの村人として、平和に暮らしていた王子は、ひとり、狩りの途中で、ふと立ち寄った泉のほとりで休んでいるところを、あっけなく斬り殺されてしまったのです。
《第18話(最終話)へ つづく》