他人の星

déraciné

タブラ・ラサ

 

 

        生まれたとき 手紙を 持ってたはず なんだ

 

        そう ぼくが

 

        なぜ こんなに 苦しいのか

        なぜ こんなに かなしいのか

        なのに なぜ 生まれたのか

 

        けれども その手紙は

        日々 手あかにまみれ

        踏みにじられ 破れて

        いまは もう

        何が書いて あったのか

        読めも しない

 

        だから

 

        ぼくは ときどき

        むやみやたらと

        あやまりたくなる

 

        ごめん

        ごめんね 

        ほんとうに ごめんなさい と

 

        そして

 

        ぼくは 

        むやみやたらと

        何もかもを

        きずつけたくなる

 

        ぼくに さわろうとするもの すべてを

 

 

        何も 知らない

        何も わからない

        もう

        どこにも 書いて いない から

 

        生きる こと

        信じる こと

        愛する こと

        死ぬ こと

 

        ひと

        いのち

        世界

 

        すべては

        あの 

        失われた 手紙のなかに

  

 

 

        まばゆい 光を放ち

        おそろしく 速い

        あの 列車が いつ ぼくを 轢いていくのか

        わかりもしない 線路の上を

 

        いったい どこまで

        歩いて いくの だろうか

 

        ぼろぼろになった

        紙きれ ひとつ

        捨てることも できないままで