他人の星

déraciné

graduate

 

 

       「これから スタバで

       ゆずシトラスティー 飲むの」 と

       彼女たちは 言った

 

       その 言葉の 響きに

       青くて 鮮烈で さわやかな 香りがした

 

       降っても 晴れても

       同じ教室で すごした 日々が

       彼女たち ふたりを 包みこみ 

 

       いまは 夕暮れどき

 

       もうすぐ ここを 去っていく 時間だね

 

 

       光と 風に 送られて

       やがて 飛び立つ 教室の扉を

 

       彼女たちは 右へ

       わたしは 左へ

       分かれて 歩く

 

       おそらく 二度と 会うことはないだろう

       その 背中を

       長い 長い 廊下の曲がり角で

       思わず 振り返る

 

       彼女たちは 一度も 振り返らず 行った

 

       ものたりない ような

       なごりおしい ような

       かなしい ような

       せつない ような

 

       胸のなかで 木枯らしのように

       うずをまく 気持ちに

 

       ああ わたしの方が 幾分

       さびしがり だったんだな と

 

       誰も いなくなって 静まりかえった

       長い廊下の はるか先を 思う

 

 

       これから 彼女たちが 飲むという

       “ゆずシトラスティー” は

 

       甘酸っぱくて すがすがしくて

       それに

       柑橘系 特有の

       ほんのり 残る 苦みも あるの だろうか

 

       幸せ とか

       人生 とか

       愛 とか

       そういうもの みたいに