他人の星

déraciné

正しい 世界の 歩きかた

 

 

       その少年は いつも

       膝を抱え 戸口に 座っている

       中は まばゆいばかりの 光に 満ちている というのに

       彼は 決して 入ろうとしない

 

       「なぜ」 と 問うと

       彼は 言う

 

       「幸せは いつも

       こうして 待っているときが

       いちばん 幸せ だから」 と

 

 

       その 老人は いつも 

       目を閉じて 椅子から 動かない

       仔犬は 彼を 散歩へ誘うのに

       彼は 決して 立とうとしない

 

       「なぜ」 と 問うと

       彼は 言う

 

       「正しく 生きる なんて

       どだい 無理な話だ

       正しさ というものが

       どんなものか 知らないのだから」 と

 

 

       その 少女は いつも

       白い ショールを 翼のように 広げ

       走っていくのが 好きだった

 

       けれども いつしか 

       少女は 大人になり 年老いた

 

       大きくなったら 鳥になれると 思っていたから

       歩き方など 学びもしなかった

 

       手を 放してしまった 風船が

       二度と 戻らなかった あの日

       空が 自分のものに ならない と 知った

 

       「なぜ」 と 彼女は 問うた

       けれども 誰も

       彼女を 救う言葉を

       みつけられなかった

       

       どう 歩けば いいのかも わからず

 

       彼女は

               

       楽しむには 短く

       苦しむには 長い 道を

 

       いまは ただ 寄る辺なく 

       心もとない 二本の足で たどる だけ

         

 

 

 

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