むかしむかし、ある国に、それはそれは愛らしい女の赤ちゃんが二人、誕生しました。それは、色とりどりの花が咲きほこる、いちばん美しい季節のことでした。
二人の女の赤ちゃんは、奇しくも同じ日、同じ時刻に生まれ、その顔は、瓜二つでしたが、もちろん、違うところもありました。
一方の赤ちゃんは、輝くようにすべらかな絹の上に寝かされていましたが、もう一方の赤ちゃんは、つぎをあてた、粗末な布の上に寝かされていました。そして、一方の赤ちゃんは、頭に冠を頂いた紳士と貴婦人に、かわるがわる抱かれていましたが、もう一方の赤ちゃんは、質素な身なりの女がそばにいるだけでした。
そうです。一方の赤ちゃんは、お城のお姫さまとして、もう一方の赤ちゃんは、貧しい村女の娘として、この世に生を受けたのです。
お城のお姫さまは、一国を支配する王である父と、そのお后である母に守られて、何一つ、不自由することなく育ちました。
お城には、たくさんの家来たちがひかえておりましたし、何も望まなくても、必要なものも、それ以上のものも、何でも手に入りました。
一方の、村女の娘は、六つになった年、母親である村女が、はやり病であっけなく亡くなってしまいました。それ以来、娘は、親戚や知り合いの間を、方々たらい回しにされながら育ちました。
さて、二人の赤ちゃんは、境遇こそ違えども、すくすくと成長し、ともに十五の年をむかえました。
その年の、夏のことでした。村では、毎年恒例の夏祭りが開かれようとしていました。この国の夏祭りは、とてもたくさんの旅芸人や魔術師、演劇団などが集まるので、近隣の国々にも評判のお祭りでした。
ですから、この国の王や王族、貴族たちは、毎年必ず主賓として呼ばれ、それだけでなく、年によっては、近隣の国の貴族たちまでも、わざわざ見物にやってくることもありました。
ところで、この国の王とお后は、伝統ある自分たちの血を受けた娘の教育に熱心なあまり、とても厳しいところがありました。
ですから、お祭りなどの騒ぎやうわついた気分に、早くから慣れ親しんでしまうのはよくないことだと考え、姫には、十五才になるまでは、祭りに出かけてはならないと、かたく禁じていました。
姫は、おとなしく父母の言いつけに従い、祭りの夜には、いつも留守番をしていましたが、十五になったこの年、とうとうお許しが出たのです。
姫にとっては、禁じられていたゆえに、この日をどれだけ楽しみにしていたか、言葉では、とても言いあらわせないほどでした。
しかし、だからといって、自由で勝手な行動が許されているわけではありませんでした。
ですから、姫は、父と母の間に、ぴったりとはさまれながら、おとなしく、お祭り見物の席に着いたのです。
《第2話へ つづく》