他人の星

déraciné

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第6話

 

 王子が、命とりの病にかかっていることを知った娘は、誰よりも深く胸を痛め、どうにかして、その命を救うことはできないものかと、けんめいに考えました。

 ですが、食べもせず、眠りもせずに、どれだけ頭を悩ませても、何の妙案も浮かばず、ただ時間だけが、むなしく過ぎていきました。

 

 こうしている間にも、王子の病は、どんどん、死へむかって悪化していく一方なのだと思うと、娘はもう、いてもたってもいられなくなりました。


 結局、娘が思いつくことができたのは、国境近い東の森の奥にすむ魔女に頼み込むことだけでした。

 

 その魔女というのは、森に入り込んだ人間の子どもを喰らうとか、不可思議な術を使って、人間を森へ誘い込み、その一族の命まで根こそぎ奪うとか、悪いうわさが絶えたことのない、とてもおそろしい魔女だったのです。

 


 娘は、そこへ出かけていく勇気を、なかなかもつことができませんでしたが、命にかかわることですから、もう一刻の猶予もありませんでした。

 それで、やっとの思いで覚悟を決めて、娘は、昼でも暗い、鬱蒼とした東の森へ、誰にも何も言わずに、こっそりと、出かけていきました。

 

 それもそのはずです。

 

 娘があの悪い魔女のところへ行ったということが、村の人々に知られれば、娘ばかりか、娘の家族までもが、村を追われることになるのです。

 それほど、その魔女は、心ある人ならば決して近づくべきではない、忌むべき存在として、国じゅうの人から、大変嫌われていたのです。

 

 森は、しんと静まりかえり、まるで、娘をひとのみにしようとするかのように、二本の木が、曲がりくねって、大きな口のように開いて、待ちかまえていました。

 実際、娘が一歩、足を踏み入れたとたん、木々は、光をさえぎるように閉じてしまい、あたりは真っ暗になりました。

 そして、何か、動物の目のように黄色い、ギラギラした光が、小さなランプのように、ぽつぽつ灯り、道を指し示しました。

 

 娘は、罠にはまったウサギのように、おそろしい気持ちになって、いますぐ引き返したくなりましたが、うしろの道は、深い闇に閉ざされて消えてしまい、心細い灯りが照らす方へ、進むしかありませんでした。

 

 

 そのようにして、魔女の家にたどりついたときには、魔女は、なぜ娘がここへ来たかを、娘以上に、よく知りぬいていました。

 

                             《第7話へ つづく》