あひるの庭のアリス
おばあちゃんは
季節ごと 花のたえない
明るい庭で
あひるを 二羽
飼っている
おばあちゃんは
遊びに来た 孫娘の
つないでいた手を
やさしく はなす
あひるたちが 見ているから
大丈夫 と
四方を 白い柵に囲われた 庭で
よく晴れた 空の下
アリスは じっと
あひるたちを みつめている
あひるの つぶらな瞳は
決して 臆病 なんかじゃなく
いつでも 誰にでも
このうえなく あけっぴろげで
たとえば
庭に 隠されている 秘密も
いつでも 誰にでも
物語る
アリスは
それとは知らず 魅入られて
思わず 足を 踏み入れる
木陰の茂み
遅咲きのバラの いたんだ花弁
名前も知らない
小さい 青い 花
それらの扉は
みんな いつでも 誰にでも
無防備に
開け放たれている
白い柵を めぐらしても
そこまでは
アリスを
追っていけないことも 知らず
おばあちゃんは
庭に面した廊下から
愛しい孫娘を見ては
十時に 焼きあがる クッキーを
アリスが 喜んで食べることを 思い
幸福に ひたる
おばあちゃんの 家から帰った アリスの髪は
甘い 甘い クッキーの においがする
髪の毛を 撫でながら
ママは たずねる
「楽しかった?」 と
アリスは こくり と うなずく
たったひとりの 道
嗅いだことのない 風の匂い
見たことのない 藍色の闇
ふわりと 包まれ 落ちていく
時間のない 旅
きょう
そこへ
足を踏み入れたことなど
パパも ママも おばあちゃんも
誰も 知らない
ここにいる アリスは
今朝 元気に 飛び出していった
あの アリスでは ないことを