他人の星

déraciné

物語

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第7話

さて、一方、古井戸に突き落とされた姫は、どうなってしまったのでしょうか。 死んでしまったのでしょうか。 いいえ、生きていました。 実は、古井戸の底には、先客がいたのです。 それは、一羽のオオワシでした。 姫は、そのオオワシの背に受けとめられたこ…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第6話

それから、姫になった娘は、急いで、王とお后のもとへ、かけていきました。 王とお后は、すでに、姫がいないことに気づき、あわてて家来たちに四方八方探させていました。 そこへ戻ったのですから、姫になった娘は、王から、ひどく叱られました。 ですが、い…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第5話

<前回までのあらすじ> むかしむかし、ある国で、同じ日に、お城で一人のお姫さまが、貧しい村で一人の娘が生まれました。ともに十五歳になった夏祭りの日、村娘が、姫の腕輪を盗んだことがきっかけで、二人ははじめて出会い、お互いの顔がそっくりなのに驚…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第4話

さて、姫の方は、相変わらず、どうしたものかと考えながら、娘を見ていました。 腕輪も首飾りも、この娘に与えた方がよいのではないかと、思いはじめていたのです。 娘は、本当に、見れば見るほど、自分とそっくりでしたが、その顔には、自分にないものが、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第3話

自分と同じ顔をした姫が、思案に暮れたっきり、何も言ってこないので、娘は、いらだちを感じていました。 しかし、そのとき、ふいにまた、さっきのあの声が聞こえてきたのです。 「……おまえの、その顔。その顔に、隠そうとしても隠せない、高貴な血。だから…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第2話

さて、ここに、はじめてお披露目されるという、評判の美しい姫君を、ひそかにつけねらう者がおりました。 お城のお姫さまといえば、言うまでもなく、その装いは、たいへんに豪華なものです。 これ以上はないというくらいにつややかなバラ色の絹地に、金銀の…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第1話

むかしむかし、ある国に、それはそれは愛らしい女の赤ちゃんが二人、誕生しました。それは、色とりどりの花が咲きほこる、いちばん美しい季節のことでした。 二人の女の赤ちゃんは、奇しくも同じ日、同じ時刻に生まれ、その顔は、瓜二つでしたが、もちろん、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「不幸せな王子」第7話(最終話)

娘は、自分を誘ってくれた王子の気持ちに感謝しつつ、馬に乗り、王子の後ろに従っ て、雨あがりの森へ行くことにしました。 森の中は、この上なく美しい輝きに満ちていました。 長雨に洗われた木々も、草花も、ふくいくとした香りに満ちて、黒々とした木々の…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「不幸せな王子」第6話

翌日の晩、遅くなってから、王子は、こっそりと、家来を呼んで、言いました。 「あの鼻つまみものの女を、殺してくれ。」 家来は、その言葉に真っ青になって、言いました。 「何をおっしゃいます、王子さま。すみれや鳥ならばともかく、相手は人間、殺せば罪…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「不幸せな王子」第5話

やがて、三年の月日が流れ、娘も王子も、ともに、十八の年を迎えました。 国をあげての、盛大なお祭りのような婚礼の儀式には、とっておきの海の幸や山の幸、めずらしい料理がテーブル狭しとならべられ、陽気なかけ声や笑い声とともに、何十杯も、何百杯もの…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「不幸せな王子」第4話

娘は、町にいる間、本当にたくさんのことを、見たり、聞いたりしました。 たとえば、赤子が産まれるのを見る機会には、三度ほど、遭遇しました。この世に生を受け、祝福された赤ん坊は、金の竪琴をふるわせるように、笑いました。そのとき、娘は、この世はな…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「不幸せな王子」第3話

そんな王子も、やがて十五になり、まわりのものたちは、方々に、おふれや使いを出して、王子にふさわしい結婚相手をさがしはじめました。そのうわさを聞きつけたものは、王子が望むと望まないとにかかわらず、美しい女を、王子のもとへ送り込んできました。 …

裏切られた青年のためのおとぎ話 「不幸せな王子」第2話

さて、自分の言いつけどおりに、すみれを処分させたものの、王子は、何となく面白くないような、退屈で、不機嫌な気持ちで、日々をやりすごしていました。するとそこに、またもや、珍しい贈りものが異国の地から届けられました。 それは、とても美しい声で歌…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「不幸せな王子」第1話

むかしむかし、大きな国の、立派なお城に、一人の王子がおりました。 王子は、生まれてこの方、自ら望む、ということがありませんでした。なぜなら、王子が何かを望む前に、まわりの者たちが、王子に喜ばれそうなものをみつけては、すすんで献上したからです…