他人の星

déraciné

2019-01-01から1年間の記事一覧

『葛城事件』(1) ※ネタバレあり

「残酷なおとぎ話」 かなりきつい内容だ、といううわさを、何となく耳にしつつ、でも、いずれきっと観ようと思っていた作品でした。 この映画を観て、この「家族」を見て、どう感じるかは、当然、自分が育ってきた家族、そこから得た家族像が影響することで…

沈黙

なぜ 神は 黙って いるの だろうか おそろしい 嵐に ただ その身をまかせ 葉という 葉が 散り 枝という 枝が 折れ 脈打つ 命が 根こそぎ 失われた としても 神は まるで 知らない 顔だ にんげんが いったい 何を 考えているのか いったい 何を なそうとして…

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2) ※ネタバレあり

乗り越えられることと、乗り越えられないこと やがて、リーの、その街での過去が明らかになります。 リーと、その妻、ランディの間には、まだ幼い3人の子どもがいたのですが、家が火事になり、3人とも焼け死んでしまったのです。 火事の直前、リーは、たく…

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(1)※ネタバレあり

何か面白そうな映画はないかと、youtubeで予告編を見ていて、気になったのが、本作でした。 「面白い」映画、というのは、私にとって、たとえば、こんな感じです。 ①何もかも忘れて、お腹を抱えて笑える映画 ②静かな痛みを、胸にのこす映画 ③驚愕とともに、…

「わたし」

目覚めが おとずれる その ほんの少し前 あたまの どこか 胸の どこか とにかく 耳もと が やたら さわがしくなる ほら 起きるよ 起きてしまうから はやく しっぽを ひっこめて 「しっぽ」 って きっと 「糸」 のことだ と まだ半分 夢のなかで思う 主人が …

『ウィンド・リバー』(2)※ネタバレあり

現実の痛みに満ちた映画 私が、この映画の世界を、「現実世界と地続きの悪夢」だと感じたのは、物語が、事実に則してつくられているからではありません。 「ネイティブアメリカンと白人の間」だけの問題ではないからです。 人間のいるところなら、世界中どこ…

『ウィンド・リバー』(1)※ネタバレあり

“草原がなびく 私の理想郷 風が木の枝を揺らし 水面がきらめく 孤高の巨木は 優しい影で世界を包む 私は このゆりかごで あなたの記憶を守る あなたの瞳が遠く 現実に凍えそうな時 私はここに戻って目を閉じ あなたを知った喜びで 生き返るの” 映画の冒頭に…

愛の夢

昼過ぎに 起きたら 空色と 若草色 それに まっさらな 白を 編み込んだ 淡い レース みたいな 公園を ぬけて きみが 好きだ という れすとらんに 行こう 小鉢に 盛られた グリーンサラダ は 雨の 喜びに 跳ねまわる 水滴 みたいに みずみずしくて きみが スプ…

い た い

キズの持ち主である この ぼくが そんなに 痛がっていないのに どうして 先に きみが 痛がるんだい? ぼくには 不思議で しかたない それは きみの 生来の お節介体質 のせいなのか それとも 甘ったるい やさしさを お腹いっぱいに つめこまれて 神経が やら…

「死に至る病」

スライドガラス にのせた からだの 上で メスが 光る つんとした 消毒液のにおい は 苦手 だけれど 慢性的な 胸苦しさ それに どこか 奥深いところからくる この疼痛の 原因は いったい 何なのか すっ と ひとすじ 切り込みを入れる ぽたぽた と 血のしずく…

哀歌

もし ぼくが 壊れたら 一度きりで いいから いや できれば 二度 せめて 三度くらいは 修理に 出してくれる かな それで 四度目の 正直 もし また 壊れたり きみを 困らせたり きみの 役に 立てなくなったら そのとき は 捨てちゃっても いいから さ そうして…

『バットマン ダークナイトライジング』(4)

満ち足りた「死」を死ぬのか 満たされない「生」を生きるのか 『ダークナイトライジング』の最初の黒幕、ベインは、マスクをつけて絶えず薬を吸引しなければ地獄ほどの苦痛を免れ得ず、バットマンは、彼に、「起爆装置の場所を教えたら、死ぬことを許してや…

『バットマン ダークナイトライジング』(3)

寄せては返す 波のように ところで、物語とは、大塚英志氏が様々な物語論をまとめたところによれば、基本的に、「行って」「帰ってくる」という構造を持っている、ということです。 つまり、主人公が、ふとしたきっかけから、日常を離れた場所へおもむき、そ…

『バットマン ダークナイトライジング』(2)

「どこへでも行けたのに」―引き継がれた闘い さて、傷心のブルースを慰めるように現れた、もう一人の女性が、ミランダ・テイト(実は、ラーズ・アル・グールの娘タリア・アル・グール)です。 彼女は、ウェイン産業(ブルース)が計画を頓挫させた“慈善事業”…

『バットマン ダークナイトライジング』(1)

物語と生きる どちらかというと、暗い物語の方が好きです。 どこかもの悲しいような、胸苦しさを感じたり、最終的に希望は残っても、それは、はるか遠くに針穴ほどの光が見え隠れするような、そういう映画の方を、よく見ます。 現実の世界では、様々な出来事…

不穏

青空と 黒雲が せめぎ合い 一刻 一刻 姿を 変える 葉が つま先立って 落ちる音 さえ 聞き逃すまいと きみは 耳を そばだてる うずたかく 盛りあがった 積乱雲が 緊張が とけたように 崩れていく 空は 奇妙に明るく 押し黙る きみは じりじりする 嵐の予兆を …

自己主張 できるって いいな

小学6年生になる、姪っ子がいます。 発達段階でいえば、そろそろ思春期、というところでしょうか。 いろいろ難しい時期、といわれますね。 その姪っ子は、義兄夫婦の長女で、私は遠く離れたところに住んでいるのですが、義母(義父は2年前に他界しました)…

わたしが なくした もの

「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?」 西条八十『ぼくの帽子』 子どもの頃から、不注意で、いろんなものをなくしました。 なくしものは、なくしたいと思ってなくすわけではなく、他の人から見たら、たいしたものではなくても、身につけていたり、…

私が 殺してしまった いのち

インコ、金魚、にわとり(ひよこ)、うさぎ、犬。 子どもの頃から、家で飼った生きものです。 インコは、つがいで飼っていましたが、ある日、二匹で巣箱に入ったっきり、出てこなくなりました。 「もしかしたら、卵を温めているのかもしれないよ」と母が言い…

遺言

むかし むかし 自分の 食いぶち かせげないやつは 長い 長い 行列 つくって 処刑 されたそうな いまじゃ サイゴの 情け かけてくれる 執行人すら いないときてる てめえの しまつは てめえで つけろ とさ どうせ いずれは 死刑と 話が 決まってる せめて お…

憤懣

家は 生きてる人間 入れとく 墓だって 言った人がいる それなら さしずめ ここは かりそめの 共同墓地 で 誰が 誰か 特定もされず 一緒くたに 穴に 放り込まれて カルシウムの からから 鳴る音も 誰が 誰か 分かりは しない ついでに いえば 本当は 本当のこ…

『バットマン ダークナイト』(6)

ジョーカーの「呪い」 「面白い言葉ね。札つきなら、かえって安全でいいじゃないの。鈴を首にさげている子猫みたいで可愛らしいくらい。札のついていない不良が、こわいんです」 「私、不良が好きなの。それも、札つきの不良が、すきなの。そうして私も、札…

『バットマン ダークナイト』(5)

「たった一人の私」? さて、ジョーカーは、ゴッサム・シティの市民にゲームを強要し、従いたくない者は、街を出て行くよう、促します。 橋には爆弾が仕掛けられており、船で逃げるより他に方法はなく、結果的に、市民たちは、まんまと、ジョーカーの狙いどお…

『バットマン ダークナイト』(4)

“正義感”のあやうさ 「ジョーカー」は、口の裂けた自分の素顔に道化師のメイクをし、ハービー・デントは、素顔そのものが“トゥーフェイス”、二重性をもつのに対して、バットマンは、仮面をかぶり、素顔を隠しています。 隠す、ということは、“バットマン”にす…

『バットマン ダークナイト』(3)

仮面が仮面でなくなるとき 人は、日常生活という舞台の上で、あたかも俳優が演技をするかのように、何かの役割を演じている、と言ったのは、社会学者ゴフマンです。 なぜ、演技をするかといえば、それは、人間が、他人からよく見られたいという欲求をもって…

『バットマン ダークナイト』(2)

ジョーカーの“物語” 映画を見ている間、私は、「ジョーカー」の中に、一度入ったら出られなくなるような、深い落とし穴のような、けれども、とてつもなく魅力的な、一つの世界を見ていました。 彼は、素顔の上に、道化師のメイクをほどこしていますが、口が…

『バットマン ダークナイト』(1)

境界を越えてくるもの 私は、“ピエロ”を見ると、頭の中で、警戒を促すような音が鳴り響くのを感じます。 どうしてでしょうか。 人間が、たいした理由もなく、“現実の世界”だと取り決めた境界。 その向こうから、今まで一度も見たことがないようでいて、ひど…

コーヒー・トリップ

実に 素晴らしい飲みものだ この 色がいい 何と 表現したら いいのだろう 深くて 濃い カップに 注ぐと 底が見えない この 香りがいい 火を使って 豆を煎る なんて 人智の 極みだ この 苦みがいい 苦みを うまみと 味わえるなんて 奇跡の 瞬間だ 人生じゃ ま…

ワイナリー

「そりゃ むかしは 大酒も 飲んださ」 時計うさぎは 赤い眼で 言う 「ぼくは 下っ端で 安酒 しか 飲めなかったけど ほんとは 広くて 大きい ぶどう畑 が 欲しかった ぶどうは 欲しいだけ きみに あげる もっていって いいよ なんて 太っ腹なこと 二つも 三つ…

パラダイス ロスト

ダディー お陽さまは いつも ずっと おまえを見てる だから 決して 恥じぬよう まっすぐ 正しく 生きておいき と おしえたね けれども ここに 陽の光は ない マミー お月さまは いつも ずっと おまえを見ているよ だから 決して 恥じぬよう 強く 優しく 生き…