他人の星

déraciné

2019-01-01から1年間の記事一覧

帰ってきたウルトラマン『悪魔と天使の間に……』(4)

物が散乱し、誰もいない、静まりかえった不気味な病院を、伊吹は、輝夫少年をさがして走ります。 そしてついに、霊安室で、ランドセルに似せた、怪しげな機械を操る輝夫をみつけ、彼の攻撃をかわし、撃ち殺します。 輝夫は、あどけない少年の顔のまま、撃た…

帰ってきたウルトラマン『悪魔と天使の間に……』(3)

危険な“善意” 一方、病院では、輝夫に付きそう美奈子が、輝夫のベッドの上に、紙の花をちりばめて、眠っています。 彼女の、“漂白されたような善良さ”を感じさせる場面です。 おそらく彼女は、他人、とくに、“弱者”には優しく親切にするよう、伊吹から教えら…

帰ってきたウルトラマン『悪魔と天使の間に……』(2)

「人間」と「親」の間で…… MATの隊長であると同時に、父親でもある伊吹は、口のきけない少年と「友だちになってやろうとつとめている」こと、それを娘の優しさや善意だと受けとめ、親として、踏みにじることはできない、と言います。 「何ごとにも汚されない…

帰ってきたウルトラマン『悪魔と天使の間に……』(1)

“罪な可愛さ” 他者や、ものに対する“ほめ言葉”として使われるものに、「かわいい」という言葉があります。 言われた側が、どう感じるかはともかく、この言葉は、「かわいい」、と言った側にも、少なくはない“快感”をもたらすところが、不思議だと思います。 …

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第18話(最終話)

愛する夫の死を知った娘の嘆きは、あまりに激しいものでした。 そして、夫の死んだ泉に、自分も身を投げて、死のうとしました。 すると、そのときです。 とつぜん、あの魔女が現れ、泉に落ちた娘をすくいあげました。 魔女は、気を失った娘が目を覚ますと、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第17話

一方、王子と娘は、王子の傷が癒えるとすぐに、遠くの国へと旅立ちました。 そして、王子と娘のことを誰も知らない地で、ささやかな結婚式を挙げ、ふたりはふつうの村人として、幸せな日々を送りました。 それから二年ばかりがすぎたころ、それはそれは美し…

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第16話

王子は、言いました。 「どうして、それを、もっと早く言ってくれなかった。そなたは、わたしのために、自分の一生分の喜びと幸せと満足を投げだすことができなかったことを、悔いているのであろう?……しかし、それは、ひとおもいに命を投げだすことよりも、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第15話

そして、三日後の晩、運命の雨が降りだしました。 王子は、人々が寝静まるの深夜を待って、そっと城の庭へ出ると、湖のほとりで剣を抜き、自分の左腕の内側を、深く、えぐるように切り裂きました。 すると、おびただしい量の血が噴き出しましたが、雨が、み…

裏切られた青年のためのおとぎ話 『一生分の喜びと幸せと満足』第14話

《前回までのあらすじ》 お城の王子と貧しい村娘は、偶然の出会いから恋に落ちますが、王子の将来を案じた王とお后によって、王子は、塔の上の部屋に閉じ込められてしまいます。 自由を奪われた王子は死病にかかり、村娘は、自分の一生分の喜びと幸せと満足…

『バットマン ビギンズ』(4)

「ヒーロー」たる所以 いずれにせよ、映画の中の人物に、本気で共感したり、反発したりできるということは、人物描写が、それだけよくできているからなのだと思います。 そして、バットマンは、決して孤独ではありません。 たとえば、ブルースから、自分のこ…

『バットマン ビギンズ』(3)

「恐れる男」と「恐れない女」―ブルースとレイチェル 劇中の、ブルースとレイチェルの関係を見ていて、何となく、思い出したものがあります。 夏目漱石の、『彼岸過迄』という作品です。 「僕は自分と千代子を比較する毎に、必ず恐れない女と恐れる男という…

『バットマン ビギンズ』(2)

「どうして人は落ちるのか?」 以下、ネタバレになりますので、ご注意ください……。 バットマンこと、ブルース・ウェインの恐怖の対象は、コウモリであり、彼のコウモリ恐怖症は、少年の日、深い穴に落ち、そこでコウモリの群れに襲われたことに由来します。 …

『バットマン ビギンズ』(1)

“クリストファー・ノーラン” レンタルDVDで、映画でも観たいな。でも、何を借りよう? よく、迷います。 レンタルビデオやさんで、ジャンルの棚の間を、行ったり来たり、迷いすぎて、足が棒になって、くたくたに疲れて、結局、何も借りなかった、なんていうこ…

サーカス

夜の とばりが落ちて しはいにん が 眠りについたら 泣いてもいいし 叫んでもいい 南国の鳥は 笑うように 鳴くけれど そんな声を どこで どれだけ 練習して ものにしたのだろう ぼくは 明日 もう明日だという日に 猶予なく 容赦なく ジャングル という名の …

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第13話

ですが、そんなこととはいっさいかかわりなく、幼いころから優しく賢かった王子は、お城に帰ってくると、たちまちのうちに、多くの家来たちを、とりこにしてしまいました。 王やお后に近い座にいる者たちは、隣国の強さをよく知っていましたから、次期王のも…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第12話

さて、死んだはずの王子が、世にも美しくりりしい若者の姿となって戻ってきたために、お城は、上を下への大騒ぎになりました。 当然、王子は死んだものとして、国のまつりごとがすすめられていたのですから、たまったものではなかったのです。 王子以外に子…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第11話

すると、王子の瞳に輝きが戻り、傍らにいる娘に気がついて、口を開きました。 「………おお、そなたは、わたしの美しい人ではないか。」 娘は、涙を流しながら、言いました。 「王子さま。わたしが、おわかりになるのですか。あなたさまは、十年の歳月を経て、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第10話

《前回までのあらすじ》 むかし、ある国で、十五になったばかりの王子と、貧しい村娘が出会い、恋に落ちるのですが、王子の行く末を案じた王とお后によって、王子は、無理矢理高い塔の上の部屋に、閉じ込められてしまいます。 村娘にも会えないばかりか、塔…

文明の不安

そんなに 急いで どこへ 行くのかって? 決まってるさ 遠くだよ ずっと 遠く 外国へでも 行くのか って? そんなの 古い 古い いまじゃ 月にだって 火星にだって 行ける時代だよ 行けるのなら 行かなくちゃ けれども きみは 言う 行くのは いい けど どうし…

名前

だらだらと つづく 坂道は けんのんで 疲れる から 区切りをつけよう ついでに 名前の ひとつも つけとこう もったいぶって 仔細らしく 知恵をしぼって 考える 「いい名前」 それだけじゃ 駄目なんだ 本当に すごく 素晴らしい 名前 でなくちゃ 誰もが 感心…

『エレファント・マン』(5)

遠い他人の実話=“フィクション” 同じものや似たもの同士を一緒くたにし、カテゴライズして名前をつけ、対応を効率化させることに長けている人間という生きものは、他方、新奇のものをどう捉えて接したらよいのかについては、ひどく不器用です。 そのような…

『エレファント・マン』(4)

「みんなちがって、わたしだけいい」 つまり、それほど変わりも動きもしていない“エレファント・マン”ジョン・メリックをめぐって、まわりの人たちは、必死になって、踊っているのです。 蔑んで、貶めるか。 異常に敬愛し、礼賛するか。 どうして、ふつうにで…

『エレファント・マン』(3)

奇異なふつうの人々 エレファント・マンは、特殊な容貌をもっているだけで、ごくふつうの人間であり、まわりの人々もまた、ふつうの人間たちです。 ところが、このふつうの人々は、ほとんどふつうの行動を取ることができていないのです。 たとえば、ジョン・…

『エレファント・マン』(2)

“北極星”をめぐって この映画の主人公は、確かに、エレファント・マン(ジョン・メリック)なのですが、彼は、ほとんど動かない“北極星”であって、裏主人公、つまり、見世物小屋に入れられているのは、彼のまわりの人間たちの方だったのではないのでしょうか…

『エレファント・マン』(1)

“デヴィッド・リンチ”の“エレファント・マン” 映画館で『ロスト・ハイウェイ』を見て以来、何となく、デヴィッド・リンチの監督作品が気になるようになりました。 …とはいっても、観たのは、今のところ、テレビドラマ『ツイン・ピークス』と、映画『マルホラ…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第9話

森をあとにした娘は、それだけで、すべてを奪われたように、胸の底が、冷たくなる思いでした。 そして、約束の「明日の晩」、はすぐに来てしまい、娘は、魔女に言われたとおり、部屋には誰も入れず、ひとりで床につきました。 いつもは疲れ果てて、床(とこ)…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第8話

「では、いったい何を……。わたしはいったい、何をさしあげればよいのですか。」 「そうだねぇ………。わたしが欲しいのは……。おまえが、これから一生のうちに受けるだろう、喜びと、幸せと、満足。そうだ、それがいい。」 「わたしが、これからの人生で受けるこ…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第7話

「おまえがここへ来ることは、ずっと前から、わかっていたよ。」 そう言った魔女の、銀色の瞳は、おそろしく澄んで美しかったので、娘は思わず、息をのみました。 吸い込まれそう、とはこのことです。 まるで、高い断崖の上に立ち、底の底まで見通せる、透明…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第6話

王子が、命とりの病にかかっていることを知った娘は、誰よりも深く胸を痛め、どうにかして、その命を救うことはできないものかと、けんめいに考えました。 ですが、食べもせず、眠りもせずに、どれだけ頭を悩ませても、何の妙案も浮かばず、ただ時間だけが、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第5話

もちろん、かりにも王子たるものを閉じ込める部屋ですから、冷え冷えとした、鉛色の牢獄ではありません。 贅沢のかぎりをつくして飾り立てられた広い部屋には、必要なものも、そうでないものも、何でもありました。 王子のために、日々、豪華で美味な食事が…