他人の星

déraciné

エッセイ

『パラサイト 半地下の家族』(2)―自立?-

「めしを食べなければ死ぬ、という言葉は、自分の耳には、ただイヤなおどかしとしか聞えませんでした。その迷信は、(いまでも自分には、なんだか迷信のように思われてならないのですが)しかし、いつも自分に不安と恐怖を与えました。人間は、めしを食べな…

『パラサイト 半地下の家族』(1)ー人間の価値?ー

ワインの価値は 「つまり、人間はラベルなんだよ。一流のビンテージなら、一流の人間に飲まれ、安いビンテージなら、安い人間にしか相手にされない」 「そうかな。たとえこれが1000円の安いワインだったとしても、12万円だって言われたら、みんな、ありがた…

『リリーのすべて』(3)ーわたしの中の、“火掻き棒”ー

“あぁ、カン違い” 漫画『サザエさん』の中に、とても興味深いエピソードがあります。 カツオくんが、交通量の多い大通りに面した歩道を歩いていると、同じ学校に通う女の子に出会います。 「ア!! 一組の岡さん」 岡さんは、言います。 「アラ このへんはじめ…

『リリーのすべて』(2)ー「わたし」を生かすもの、あるいは、「殺す」ものー

雪だるまの“恋” アンデルセン童話の中に、『雪だるま』というお話があります。 雪だるまは、外から見える家の中のストーブが、赤々と、時折、ちらちらと炎の舌を見せながら燃えるのを見た途端、なんとも妙な気持ちになり、胸が張り裂けそうになるのです。 “…

『リリーのすべて』(1)ー「自分」でいようとすることが、どうしてこんなにも難しいのかー

「ごめんなさい」「すみません」は、最大の防御 つい、一週間ほど前のことでした。 バスの中で、女子大生が2人、そこそこの声量で(少なくとも、車内の人全員に、話の内容がすっかりわかるくらいの)、(マスクをして)、おしゃべりをしていました。 「コロ…

アーサー.C.クラーク 『幼年期の終わり』(3)―苦しい「個」の生は、いったい何のために?―

過ちは去りゆく……… この間、何気なく、テレビ(いずれ去りゆく運命にあるじじばばメディア、と私はよく、パートナーに言っていますが)を見ていて、いまさらのように気がついたことがありました。 そうか、「過去」とは、「過ちが去る」、と書くのだっけ……… …

アーサー.C.クラーク 『幼年期の終わり』(2)―ヒトがヒトの正体を知らなさすぎる、という謎―

数週間前の土曜の夕食時、テレビを見ていて、思わず、カレーを食べる手が止まりました。 見ていたのは、NHK・Eテレの『地球ドラマチック』で、『ハッブル宇宙望遠鏡~宇宙の謎を探る30年間の軌跡~』です。 ハッブル宇宙望遠鏡は、宇宙が始まったばかり…

アーサー.C.クラーク 『幼年期の終わり』(1)―ヒトの戦争好きは、ヒトの幼きゆえなのか―

昨年8月、NHK・Eテレの『100分で名著』、ロジェ・カイヨワの『戦争論』が取り上げられたとき、指南役の西谷修氏は、「現代(いま)は、冷凍庫の中で戦争しているようなもの」、と言いました。 私は、なんてうまい表現だろう、と思いました。 あるいは、…

ウィリアム・ゴールディング『蠅の王』(6)―なぜ人は、“人間らしさ”=優しさやあたたかさ、思いやりだと思うのか?

人間は、そんなにいいものか? 「いったいみなさんは、人間の本性に利己主義的な悪が関与していることを否定する義務を感じなければならぬほど、上司や同僚から親切にされたり、敵に義侠心を見出したり、周囲からねたまれずにいたりしているのでしょうか。」…

ウィリアム・ゴールディング 『蠅の王』(4)…にかこつけて、「マスクするのしないの云々かんぬん」について

「ラーフは他の所を通らず、この固くなっている一条の砂地の上を歩いていった。考えごとをしたかったからである。この砂地の上だけしか、足に気をとられずに自由に歩ける所はほかになかった。波打ち際を歩きながら、彼はあることに気づき、愕然とした。この…

人を死に至らしめるもの(3)

“呪われた”人 「人間は、仲間の見えるところにいるのを好む群居動物であるだけでなく、仲間から認められたい、しかも好意的に認められたいという生得的な傾向をもっている。社会のすべての成員から、そっぽをむかれ、注意を払われないことほど、残忍な刑罰は…

人を死に至らしめるもの(2)

“さあ と私の『魂』は言った 私の『からだ』のために歌を書こう 私たちはひとつのものだ もしも私が死んで 目には見えぬ姿となって地上に戻り あるいは遙か遠い未来に 別の天体の人となり ふたたび歌い始める時があれば いつも微笑みをたたえて歌い続け 永遠…

人を死に至らしめるもの(1)

「誰でもめいめい自分のうちにペストをもっているんだ。なぜかといえば誰一人、まったくこの世に誰一人、その病毒を免れているものはないからだ。そうして、引っきりなしに自分で警戒していなければ、ちょっとうっかりした瞬間に、ほかのものの顔に息を吹き…

『他人の星』

人は、自分のものなど何ひとつもたずに生まれてきて、他人の布団の上に寝かされ、そこへ、自分の居場所をつくっていかなければならないという問題を抱えている、と言ったのは、宮崎駿監督でした。(スタジオジブリ『夢と狂気の王国』) このブログの名前も、同…

バラの言葉

朝、いつもバスで通る小さなスーパーの前に、「看板犬」がいます。 赤の柴犬で、もう何年も前からそこにいて、だいぶ年をとったのでしょう、最近では、眠っているか、「伏せ」の姿勢で、まぶしそうに目を細めて、朝日を見ています。 その犬が、どんなにまぶ…

音楽のゆりかご

ビートルズの、“Eleanor Rigby”という曲が好きです。 前日の詩は、この曲と歌詞のイメージで書いたものです。 もう何十年も前のことになりますが、私が大学生のとき、ビートルズのアルバムをCDで買いそろえ、ヘヴィローテーションしてました。 おかげで、何…

不謹慎、上等(4)

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、こう述べています。 「日本帝国の軍事的復活―それが新日本の真の復活なのだ―は、日清戦争の勝利とともに始まった。戦争は終り、将来は曇って暗いけれども、それでも大きな希望を約束しているかに見える。それに、今度の…

不謹慎、上等(3)

8年半ほど前の東日本大震災の際、被災地のライフラインは寸断され、当然、テレビを見ることもできませんでした。 あとで聞いた話ですが、その間、テレビでは、沿岸部のガス爆発火災など、「派手で(画になる)」場面を繰り返し流し、長崎の義母は、「これで…

不謹慎、上等(2)

防衛機制、というのは、人間ならば誰しももっている欲求や衝動(主に、攻撃欲求や性的欲求など)を、そのまま露わにすれば、場合によっては“犯罪”として罰せられ、社会から排斥される危険性があるときなどに、無意識的に発動する心の働きです。 その働きによ…

「不謹慎、上等」(1)

たった数分、ないし、数時間のことなのに、人生を、根こそぎなぎ倒してしまう。 大切な人やものを、一瞬にして、すべて、奪い去る。 けれども、その同じ時間に、他の人は、くだらない冗談で笑っていたり、おいしいも のを食べたり、快楽や享楽に溺れていたり…

お金の話。

「みんな金が欲しいのだ。そうして金より外には何にも欲しくないのだ。」 夏目漱石『道草』 お金の話………。 お金の話なんて、やめようよ。 じゃ、何の話? うーん、お金の話。 ようするに、世の中、金、金、金の話ばかりしている、ということも忘れるくらいに…

自己主張 できるって いいな

小学6年生になる、姪っ子がいます。 発達段階でいえば、そろそろ思春期、というところでしょうか。 いろいろ難しい時期、といわれますね。 その姪っ子は、義兄夫婦の長女で、私は遠く離れたところに住んでいるのですが、義母(義父は2年前に他界しました)…

わたしが なくした もの

「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?」 西条八十『ぼくの帽子』 子どもの頃から、不注意で、いろんなものをなくしました。 なくしものは、なくしたいと思ってなくすわけではなく、他の人から見たら、たいしたものではなくても、身につけていたり、…

私が 殺してしまった いのち

インコ、金魚、にわとり(ひよこ)、うさぎ、犬。 子どもの頃から、家で飼った生きものです。 インコは、つがいで飼っていましたが、ある日、二匹で巣箱に入ったっきり、出てこなくなりました。 「もしかしたら、卵を温めているのかもしれないよ」と母が言い…

「わたし」は何からできているのか?

いまの自分をつくっているものが、何かと考えたときに、どうしても無視できないのが、「親」の存在、ではないでしょうか。 私の場合、自分の親が、どういう位置にあったのかを知る材料は、成長過程から接してきた、他人の親の存在でした。 私にとって、「他…

「大人とは、裏切られた青年の姿である。」(4)

「…だから、向うの気が進まないのに、いくら私が汚辱を感ずるようなことがあっても、決して助力は頼めないのです。……或場合にはたった一人ぼっちになって、淋しい心持がするのです。」 夏目漱石『私の個人主義』 相手にその気はないのに、自分と一緒に行動す…

「大人とは、裏切られた青年の姿である。」(3)

怒りや憎しみ、あるいは、悲しみや孤独などの、「ネガティブ」な感情を、善くないと決めつけ、たとえば、人を恨んだり、憎んだりしてはいけない、といわれることもありますが、本当にそうでしょうか。 怒りも憎しみもなしに、かつて、自分が相手か、相手が自…

「大人とは、裏切られた青年の姿である。」(2)

太宰の言葉に、話を戻したいと思います。 彼は、故郷の津軽で、もとは自分の家の使用人だった「T君」と再会し、子どもの頃のように、親しみのあかしとして、その先の道中へ「一緒に行かないか」と誘おうとするのですが、遠慮して、言えませんでした。 この「…

「大人とは、裏切られた青年の姿である。」(1)

「大人というものは侘しいものだ。愛し合っていても、用心して、他人行儀を守らなければならぬ。なぜ、用心深くしなければならぬのだろう。その答は、なんでもない。見事に裏切られて、赤恥をかいた事が多すぎるからである。人は、あてにならない、という発…

人間、好きですか (3)

あるものを、「好きだ」とか、「嫌いだ」とかいうのは、単なる好みの問題や、感情判断であって、それ以上のものでも、それ以下のものでもなく、快不快もまた同様です。 つまり、善や悪などの絶対的価値判断とは分けて考えられるべきものです。 ところが、そ…