他人の星

déraciné

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

名前

だらだらと つづく 坂道は けんのんで 疲れる から 区切りをつけよう ついでに 名前の ひとつも つけとこう もったいぶって 仔細らしく 知恵をしぼって 考える 「いい名前」 それだけじゃ 駄目なんだ 本当に すごく 素晴らしい 名前 でなくちゃ 誰もが 感心…

『エレファント・マン』(5)

遠い他人の実話=“フィクション” 同じものや似たもの同士を一緒くたにし、カテゴライズして名前をつけ、対応を効率化させることに長けている人間という生きものは、他方、新奇のものをどう捉えて接したらよいのかについては、ひどく不器用です。 そのような…

『エレファント・マン』(4)

「みんなちがって、わたしだけいい」 つまり、それほど変わりも動きもしていない“エレファント・マン”ジョン・メリックをめぐって、まわりの人たちは、必死になって、踊っているのです。 蔑んで、貶めるか。 異常に敬愛し、礼賛するか。 どうして、ふつうにで…

『エレファント・マン』(3)

奇異なふつうの人々 エレファント・マンは、特殊な容貌をもっているだけで、ごくふつうの人間であり、まわりの人々もまた、ふつうの人間たちです。 ところが、このふつうの人々は、ほとんどふつうの行動を取ることができていないのです。 たとえば、ジョン・…

『エレファント・マン』(2)

“北極星”をめぐって この映画の主人公は、確かに、エレファント・マン(ジョン・メリック)なのですが、彼は、ほとんど動かない“北極星”であって、裏主人公、つまり、見世物小屋に入れられているのは、彼のまわりの人間たちの方だったのではないのでしょうか…

『エレファント・マン』(1)

“デヴィッド・リンチ”の“エレファント・マン” 映画館で『ロスト・ハイウェイ』を見て以来、何となく、デヴィッド・リンチの監督作品が気になるようになりました。 …とはいっても、観たのは、今のところ、テレビドラマ『ツイン・ピークス』と、映画『マルホラ…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第9話

森をあとにした娘は、それだけで、すべてを奪われたように、胸の底が、冷たくなる思いでした。 そして、約束の「明日の晩」、はすぐに来てしまい、娘は、魔女に言われたとおり、部屋には誰も入れず、ひとりで床につきました。 いつもは疲れ果てて、床(とこ)…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第8話

「では、いったい何を……。わたしはいったい、何をさしあげればよいのですか。」 「そうだねぇ………。わたしが欲しいのは……。おまえが、これから一生のうちに受けるだろう、喜びと、幸せと、満足。そうだ、それがいい。」 「わたしが、これからの人生で受けるこ…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第7話

「おまえがここへ来ることは、ずっと前から、わかっていたよ。」 そう言った魔女の、銀色の瞳は、おそろしく澄んで美しかったので、娘は思わず、息をのみました。 吸い込まれそう、とはこのことです。 まるで、高い断崖の上に立ち、底の底まで見通せる、透明…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第6話

王子が、命とりの病にかかっていることを知った娘は、誰よりも深く胸を痛め、どうにかして、その命を救うことはできないものかと、けんめいに考えました。 ですが、食べもせず、眠りもせずに、どれだけ頭を悩ませても、何の妙案も浮かばず、ただ時間だけが、…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第5話

もちろん、かりにも王子たるものを閉じ込める部屋ですから、冷え冷えとした、鉛色の牢獄ではありません。 贅沢のかぎりをつくして飾り立てられた広い部屋には、必要なものも、そうでないものも、何でもありました。 王子のために、日々、豪華で美味な食事が…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第4話

王子はそれまで、他人の、あからさまな敵意や憎悪にふれたことはありませんでした。 城の中のものも、外のものも、誰もが王子によくしてくれるのですが、それは、王子という立場への親切であって、自分でなくてもよい気がすることも、少なくはありませんでし…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第3話

娘の方は、足早に歩きながら、頭の中を、いろいろな思いがよぎるのに、耐えていました。 あの首飾りは、ずっと前から、欲しくてたまらなかったものでした。 それを、「あげる」と、目の前にぶらさげられたのですから、本当に、喉から手が出るようでした。 し…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第2話

それからというもの、王子は、足しげく、その村へ、通うようになりました。 どう猛な、獣たちの前でも、荒々しい男たちの前でも、こわいもの知らずだった王子が、たったひとりの娘の前では、ウサギよりも臆病になりました。 娘が、市場で、青い石のついた首…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「一生分の喜びと幸せと満足」第1話

むかしむかし、ある国に、それはそれは美しい、王子さまがおりました。 王とお后の愛を受けて、すくすく育った王子は、十五の誕生日を迎えたばかりでした。 彼は、少年の頃から、家来も連れず、何も言わずに、ひとりで出かけていくことを大変好みましたが、…

孤独

ふいに 飛び込んできて 胸ぐらを つかんだ あの 風は 本当は どこへ 行きたかったのか ふいに 舞い込んできて 靴の下で 息絶えた あの 花びらは 本当は どこで 死にたかったのか 「トゲ」 と 「輝き」は いつも 同時 さびしさの なれのはて それが 「かなし…

誘惑

花は たくらんでいる 音も立てず 身じろぎもせず 花は きいている 生きものの たしかな息吹 鼓動の音を 花は 誘っている 花摘む人を 道の奥へ 自らの首を 与えつつ 花は 待っている 囚われ人が 自由を探して 迷い込んでくるのを 逃さず まるごと 喰らうために

帰ってきたウルトラマン『怪獣使いと少年』(4)

「遠く 離れて 地球に一人」 よくいわれることですが、人間は神ではなく、万能ではありません。 けれども、口でそう簡単に言うほど、この身にしみ入るほどにはわかっていないな、と、私自身、自分でもよく思うことがあります。 人間の想像力にも、限界があり…

帰ってきたウルトラマン『怪獣使いと少年』(3)

物語の役割 人間の本質への、冷徹なまなざしは、さらに、「日本人」にも向けられます。 MATの伊吹隊長は、郷に、こう言います。 「日本人は、美しい花をつくる手をもちながら、一旦その手に刃を握るとどんな残忍きわまりない行為をすることか」 『帰ってきた…

帰ってきたウルトラマン『怪獣使いと少年』(2)

混沌とした宇宙は、人間の中にある 良くんは、自分の命の恩人であるだけでなく、親愛の情で結ばれたメイツ星人の“おじさん”と一緒に、メイツ星へ帰るために、毎日、河岸で穴を掘り、そこに埋まっているはずの宇宙船を、懸命に探すのです。 すべての経緯と理…

帰ってきたウルトラマン『怪獣使いと少年』(1)

最近、テレビで、『帰ってきたウルトラマン』を模した某ビール会社のCMを見た……からというわけでもないのですが、久しぶりに見たい、と思ったのが、本作でした。 「昭和」の原風景 長身で、すらりとしたウルトラマンに比して、“日本人体型”の新マン(帰って…

『ジェイコブス・ラダー』(3)

「現実」ー夢と幻想の間に この物語は、ジェイコブが戦場で刺され、瀕死の重傷を負ってから、野戦病院に運ばれて、様々な治療を施されたのち、最期に力尽きて死ぬまでの間に見た、彼の夢、幻ということになるのでしょうか。 ですが、夢や幻で片付けてしまう…

『ジェイコブス・ラダー』(2)

「死」からはじまる「生」の物語 以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください……。 この映画で、“現実”として流れているのは、主人公ジェイコブが、戦場で致命傷を負ってから、ヘリで野戦病院に運ばれ、様々な処置を受けた末に、死をむかえるまでの時間な…

『ジェイコブス・ラダー』(1)

「地下鉄」ー暗闇と無意識、魑魅魍魎の世界 地下鉄に乗ろうとして、階段を下っていくと、いつも、かび臭いような、湿った風が吹いてくるのを感じます。 その匂いを嗅いだときから、再び地上へ出るまでの間、本当は、人間の領分ではない場所にいるような気が…

Good luck

果ては あるのに あてのない旅 続けるためには おいしい食事 と 澄んだ水でも なくっちゃね 道は 分かれていても 標識のない旅 楽しむためには きれいな花 と 鳥のうたでも なくっちゃね 四つ辻の 真ん中にあるのは 自殺者の墓だと きいたけど 本当 かな ち…

生き 死に

ずっと 見えている 真っ直ぐに 見ることは できない けれども この 生活が この 人生が ときに 少しずつ ときに 大胆に なんでもかんでも 気まぐれに 奪っていくのを あざやかさも みずみずしさも 躍動し はずむ いのちの やわらかさと あたたかさも あんな…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第18話(最終話)

そのとき、姫の心にあったのは、あのなつかしいオオワシのことだけでした。 姫の願いは、ただ一つでした。もう一度、あのオオワシに会いたい、そうして、そのそばで、何も考えずに眠りたい、それだけでした。 そうなのです。姫にとって、自らおもむくべき場…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第17話

召使いは、城にとどまろうとする姫を懸命に説得しつつ、失礼を承知の上で、むりやりに姫の手を取って、先へと進みました。 姫の足は、引っぱられるまま、力なく、前へと進みました。 「真実は、いつも、人間に遠い」。 姫は、オオワシの言葉を思い出しました…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に」第16話

ですが、姫も、姫を助け出した召使いも、当然、そのことを知りませんでした。 ふたりは、しばらくの間沈黙し、いくつもの小径や隠し部屋を通って、さらに遠くへ、遠くへと逃げることに集中しました。 そして、安全なところまで来ると、姫は、召使いに話しか…

裏切られた青年のためのおとぎ話 「真実は井戸の底に 第15話」

「では、それならば…。…でも、なぜ…。あの者は、いったい………」 姫は、自らに問うように、言いました。 そのとき、遠くで、犬が吠えたような声が響きました。 ふたりは、ぎょっとして、足を止めましたが、あとには、静寂があるばかりでした。 「先を急ぎまし…