他人の星

déraciné

きみの永遠

いちばん 濃くて 新鮮な ミルク みたいに ちからいっぱい そそがれる 朝の光を まっすぐ みつめて きみは それだけで 満足そうに 目を 細める きみが 少しも おそれないから 「死」も 少しも おそれない まるで 守護天使か 聖母みたいに いつくしみ深い 微笑…

“all the Lonely People” 

何億光年 はるか 遠い どこかの 星の 小さな部屋で 誰かが 幻灯機を まわしている そこに 映るのは 何億年も 前に 生きていた 人たちで いま 映像に 見入る その 誰かにとっては 夢のなかの人 同然 なのだけれど 何億光年も はるか むかし そこにあった 蒼い…

自問自答

空虚だ むなしい と おまえは 深く とがった ため息を つく けれど にわか雨が 気まぐれに おきざりにした あの 水たまりほども おまえの 心が 何かで 満たされたことなど あっただろうか かなしい くるしい と おまえは 涙を流す けれど それは ほんとうに …

「アラクノフォビア」

頭上を 鳥が 飛んでいく 影が 千々に乱れ わたしの 上を 通り 過ぎる その 長い 指先で さがして いるのだ いのちを つなぐ いのちを わたしは 窓を 閉めて 部屋の すみに うずくまる 気づかれ ない ように 風が 侵入する すぐ そのあとを 追って 赤い ツタ…

あひるの庭のアリス

おばあちゃんは 季節ごと 花のたえない 明るい庭で あひるを 二羽 飼っている おばあちゃんは 遊びに来た 孫娘の つないでいた手を やさしく はなす あひるたちが 見ているから 大丈夫 と 四方を 白い柵に囲われた 庭で よく晴れた 空の下 アリスは じっと …

十月の蟬

キンモクセイの 甘ったるい むせかえるような 匂いが 苦しい わかっているよ この香りは ぼくたちの 夏の おわりの 合図 秋の 冷たい爪先が この心臓の さいごの一滴を 搾り取る まで あと すこし 赤い 紅い 秋が 目から 入って 胸から 流れ出す まで あと …

限界戦場

大地が 深い口を開き 赤い 血しぶきをあげれば 残るものは 何もないと ほんとうは 誰もが 知っている なのに 欲しがることを やめられないのは ぼくらが 滑車の中の ねずみだから いつの間にか 一人残らず 迷彩服を 着せられ 人いきれする 雑踏の 不快指数1…

「クリュティエ」

わたしは 太陽をみつめたことがない みつめることさえ あなたは 拒む わたしが ただの 花だから あなたを 追って 追いつづけて 愛想笑いも 上手くなった 不幸だなどと 思われたくもないから 涙が出るほど まぶしい あなたを 明から宵まで 目で追って 花弁は …

愛玩犬

ぎらぎらした 真夏の太陽が じりじりした 熱い地面が ぼくを 苛立たせる 「ぎらぎら」も 「じりじり」も カーテン越しに いくら 優しくても 空調がきいて 部屋の中は いくら 涼しくても ぼくは とんがって あつくなっている 誰かの 足音も 話し声も 笑い声も…

沈黙

なぜ 神は 黙って いるの だろうか おそろしい 嵐に ただ その身をまかせ 葉という 葉が 散り 枝という 枝が 折れ 脈打つ 命が 根こそぎ 失われた としても 神は まるで 知らない 顔だ にんげんが いったい 何を 考えているのか いったい 何を なそうとして…

「わたし」

目覚めが おとずれる その ほんの少し前 あたまの どこか 胸の どこか とにかく 耳もと が やたら さわがしくなる ほら 起きるよ 起きてしまうから はやく しっぽを ひっこめて 「しっぽ」 って きっと 「糸」 のことだ と まだ半分 夢のなかで思う 主人が …

愛の夢

昼過ぎに 起きたら 空色と 若草色 それに まっさらな 白を 編み込んだ 淡い レース みたいな 公園を ぬけて きみが 好きだ という れすとらんに 行こう 小鉢に 盛られた グリーンサラダ は 雨の 喜びに 跳ねまわる 水滴 みたいに みずみずしくて きみが スプ…

い た い

キズの持ち主である この ぼくが そんなに 痛がっていないのに どうして 先に きみが 痛がるんだい? ぼくには 不思議で しかたない それは きみの 生来の お節介体質 のせいなのか それとも 甘ったるい やさしさを お腹いっぱいに つめこまれて 神経が やら…

「死に至る病」

スライドガラス にのせた からだの 上で メスが 光る つんとした 消毒液のにおい は 苦手 だけれど 慢性的な 胸苦しさ それに どこか 奥深いところからくる この疼痛の 原因は いったい 何なのか すっ と ひとすじ 切り込みを入れる ぽたぽた と 血のしずく…

哀歌

もし ぼくが 壊れたら 一度きりで いいから いや できれば 二度 せめて 三度くらいは 修理に 出してくれる かな それで 四度目の 正直 もし また 壊れたり きみを 困らせたり きみの 役に 立てなくなったら そのとき は 捨てちゃっても いいから さ そうして…

不穏

青空と 黒雲が せめぎ合い 一刻 一刻 姿を 変える 葉が つま先立って 落ちる音 さえ 聞き逃すまいと きみは 耳を そばだてる うずたかく 盛りあがった 積乱雲が 緊張が とけたように 崩れていく 空は 奇妙に明るく 押し黙る きみは じりじりする 嵐の予兆を …

遺言

むかし むかし 自分の 食いぶち かせげないやつは 長い 長い 行列 つくって 処刑 されたそうな いまじゃ サイゴの 情け かけてくれる 執行人すら いないときてる てめえの しまつは てめえで つけろ とさ どうせ いずれは 死刑と 話が 決まってる せめて お…

憤懣

家は 生きてる人間 入れとく 墓だって 言った人がいる それなら さしずめ ここは かりそめの 共同墓地 で 誰が 誰か 特定もされず 一緒くたに 穴に 放り込まれて カルシウムの からから 鳴る音も 誰が 誰か 分かりは しない ついでに いえば 本当は 本当のこ…

コーヒー・トリップ

実に 素晴らしい飲みものだ この 色がいい 何と 表現したら いいのだろう 深くて 濃い カップに 注ぐと 底が見えない この 香りがいい 火を使って 豆を煎る なんて 人智の 極みだ この 苦みがいい 苦みを うまみと 味わえるなんて 奇跡の 瞬間だ 人生じゃ ま…

ワイナリー

「そりゃ むかしは 大酒も 飲んださ」 時計うさぎは 赤い眼で 言う 「ぼくは 下っ端で 安酒 しか 飲めなかったけど ほんとは 広くて 大きい ぶどう畑 が 欲しかった ぶどうは 欲しいだけ きみに あげる もっていって いいよ なんて 太っ腹なこと 二つも 三つ…

パラダイス ロスト

ダディー お陽さまは いつも ずっと おまえを見てる だから 決して 恥じぬよう まっすぐ 正しく 生きておいき と おしえたね けれども ここに 陽の光は ない マミー お月さまは いつも ずっと おまえを見ているよ だから 決して 恥じぬよう 強く 優しく 生き…

サーカス

夜の とばりが落ちて しはいにん が 眠りについたら 泣いてもいいし 叫んでもいい 南国の鳥は 笑うように 鳴くけれど そんな声を どこで どれだけ 練習して ものにしたのだろう ぼくは 明日 もう明日だという日に 猶予なく 容赦なく ジャングル という名の …

文明の不安

そんなに 急いで どこへ 行くのかって? 決まってるさ 遠くだよ ずっと 遠く 外国へでも 行くのか って? そんなの 古い 古い いまじゃ 月にだって 火星にだって 行ける時代だよ 行けるのなら 行かなくちゃ けれども きみは 言う 行くのは いい けど どうし…

名前

だらだらと つづく 坂道は けんのんで 疲れる から 区切りをつけよう ついでに 名前の ひとつも つけとこう もったいぶって 仔細らしく 知恵をしぼって 考える 「いい名前」 それだけじゃ 駄目なんだ 本当に すごく 素晴らしい 名前 でなくちゃ 誰もが 感心…

孤独

ふいに 飛び込んできて 胸ぐらを つかんだ あの 風は 本当は どこへ 行きたかったのか ふいに 舞い込んできて 靴の下で 息絶えた あの 花びらは 本当は どこで 死にたかったのか 「トゲ」 と 「輝き」は いつも 同時 さびしさの なれのはて それが 「かなし…

誘惑

花は たくらんでいる 音も立てず 身じろぎもせず 花は きいている 生きものの たしかな息吹 鼓動の音を 花は 誘っている 花摘む人を 道の奥へ 自らの首を 与えつつ 花は 待っている 囚われ人が 自由を探して 迷い込んでくるのを 逃さず まるごと 喰らうために

Good luck

果ては あるのに あてのない旅 続けるためには おいしい食事 と 澄んだ水でも なくっちゃね 道は 分かれていても 標識のない旅 楽しむためには きれいな花 と 鳥のうたでも なくっちゃね 四つ辻の 真ん中にあるのは 自殺者の墓だと きいたけど 本当 かな ち…

生き 死に

ずっと 見えている 真っ直ぐに 見ることは できない けれども この 生活が この 人生が ときに 少しずつ ときに 大胆に なんでもかんでも 気まぐれに 奪っていくのを あざやかさも みずみずしさも 躍動し はずむ いのちの やわらかさと あたたかさも あんな…

気持ち

どうせ 死ぬのに 死にたくなる どうせ 死ぬのに 生きたくなる どうせ 死ぬのに

inner childー内なる子

お日さまは ぼくに 早く動けと せかすから きらいだ と言い 雲は ぼくに 鉛になれと 呪いをかけるから きらいだ と言い まして 雨は ぼくのことを 憎んでいる だから あんなに 冷たいんだ ぼくだって 大嫌いだ と言い 窓すら 見ずに 背を向けて 座り込む こ…