詩
わたしは 太陽の 顔を 知らない かたち あるものは すべて おわりを迎える 秋の 歩道に 色あせた 落ち葉も 蝶の 羽の かけらも 雨に濡れて へばりついている わたしには それが 深い もっと深い 谷底まで 落ちていかないように けんめいに しがみつく さいご…
赤い くれよんで ぼくを 汚す ぐるぐる ぐるぐる 線を描いて 堂々巡り くれよんが 折れても つめが 赤く染まっても 止まらない 赤い 赤い ヒガンバナ おしべについた 朝露は 泣いた あとの きみの まつげみたいだと ぼくは 思った 青い リンドウの花は 野に …
愛を 叫んで ひと夏 ノドは裂け ぼくは いま 道端に 横たわる もう 飛べない もう 鳴けない 両手が かすかに 動く だけ 愛を 叫んで ひと夏 胸も裂け いま ぼくの 細い呼吸を 秋風が 何とか つないでる 思い わずらう 恋は 赤より ずっとずっと 熱い ブルー …
ひ と いらだち を 感じる いきどおり を 感じる いたみ を 感じる 異星人のように 異質で いごこちが 悪くて いれば いなければいいのに と 思う いなければ いればいいのに と 思う いとおしい と 思うのは 気まぐれな 晴れ間のようで のち ずっと 曇り の…
風が吹く夜 彼は ひとり 空き地で ボールを 蹴っている ほんとうは 小さい彼を 街灯のあかりが 大人のように 大きくする 昼間の光の下にも 彼はいて こっそりと 風が揺らす 枝葉の木陰で うかれ 遊び ひっそりと いじわるな 皮肉を言っては くすくす 笑う 「…
あれは いつのこと だっただろう 彼女は ひとりで 波打ち際に 立っていた はじめ ぼくは 彼女の つまさきを いつも 貝殻にしてやるようにして 塩辛い舌で もてあそんでいた ほんの おあそびの つもりで 彼女の 足のまわりの砂を さらっていった 彼女の 足は …
「ねぇ きみ」 僕は この声に 慣れている この声を 知っている 夜ごと あらわれる 轢死した という 男の 声だ 「あの 遮断機も 警報機も 人を 電車から 守るためのものじゃない です」 また そこから 話すか と 思いつつ 僕は 布団の上で 身じろぎもしない …
遺書を書いて それから つかの間 この世に 顔を出して 振り返れば 水が一滴 落ちる間 くらいに とても 短く けれども あの太陽に じりじりと 照りつけられれば 永遠のように 長く 雨の夜には 雨音が こっちへ こっちへと とても 易しく 道筋を つけるから と…
ずっと ずっと 雨 だった ような 気がする ずっと ずっと 晴れ だった ような 気がする いまは ただ 風が吹いている 死にものぐるいで やすらぎを 探すのに そんなものは どこにもない 水を打ち 波を立て 木の幹を 引き裂いて 泣き叫び どこまでも どこまで…
「すみません」 という 言葉を その場しのぎの 言い逃れ みたいに 何度も 何度も 言っている うちに いつしか 何の 味も しなくなる 「すみません」 すみません って 何だっけ 「ありがとう」 という 言葉を 背筋に 寒気がはしるほど ほんとうは 言いたくも …
光から わが身を 隠さんがため 迷彩服 着た すれっからし 指で 空を 四角く 囲う だだっぴろい 空 など 無用の長物 腹いせに 高く うつろな 尖塔を いくつも いくつも 空へ 突き刺す まるで 太陽でも 砕ける ような 轟音 爆音 鳴らせば 天地を 支配した よう…
ぼくは ひとり 誰も 乗っていない 深夜のバスに ゆられている 雨や 風に さらされて 守るべきものも 何も なくなった 破れて 疲れた ビニールハウス みたいに バスは 闇の中を まっすぐ 走っていく ねぇ きみは いつも ぴかぴかで いつも 目的 めがけて 迷わ…
踊れ 踊れ お人形さん この世は 楽しい ダンスホール きみは どっち ダンサー それとも ダンスホール ダンサーは もちろん 花がた スター どんな 床でも 思いのまま 難しい ステップ きめて すべるように 華麗に 踊る ごらん 彼が 踊る ダンスフロアを おび…
おなかが すいた ハンプティ・ダンプティ 小さな お庭の 塀に 座って 食べもの といえば 自分の 涙 だけ くる日も くる日も ひっきりなしに 泣き続けた ものだから 涙は やがて 小さな お池に なった ある朝 まぶしい 太陽と 真っ青な 空が お池に 映って ハ…
「ねぇ めんどうに なったんでしょ あたしのこと あたしだって あたしのこと めんどくさい もの」 けだるそうに 目をほそめ むくれて 窓のそと 行き交う人を 見るともなしに 見ている きみの 白い 頬が まぶしい 斜陽の いたずら 「だから もう いいじゃない…
熱く 冷たい 砂浜を ただ ひたすらに かけていく 足を とられ 息を 切らし 高く 深い 砂丘で ただ ひたすらに もがきつづける のぼっているのか 落ちているのか わからずに 「こころ」「からだ」「たましい」 呼び名など どうでもいい ただ あなたの その頬…
生者と 死者が 行き交う その刻 闇の 重さに ねじ伏せられて 太陽は 決して 明日を 約束しない 「金色(こんじき)の麦 この胸 いっぱいに 積んだら 帰ろう」 と それが ただの書割だと 気づく頃には もう 遅い 頭上に 迫る 黒雲と 稲光 カラスの群れが 最後…
ぼんやりと 目が かすんだように 世界の 何もかもが 二重にも 三重にも にじんで 見えることが ある きのうまで つい 一瞬間前までは はっきりと しっかりとした そのかたちにしか 見えなかったものが 光 でさえ 闇 でさえも もはや わたしに 親(ちか)しく…
でこぼこした 熱い アスファルト とおり雨が 残した 気まぐれな 水たまり 泥水の 上にも まぶしい 太陽が 反射して 直視 することは できない ヒグラシが 鳴く 晩夏の 夕暮れ 落ちくぼんだ 道端に からからに なって 上向いた ブローチみたいに 完璧な セミ…
鈍色の まぶたの 間 から 線香花火 のような 太陽 が 顔を 出す 黄色く 濁った そのひとみは わたし あるいは ほかの誰かが 死んでも いちべつも くれは しない みずからの 重みと 熱と まぶしさ に せいいっぱい だから 風が どこから か 甘い 花のかおりを…
幼い きみは たどたどしく 二本の 足で 歩いていく 草原で すっくと立った あの日から ヒトは 大地と はなればなれになった その 運命を 小さな からだは もう 知ってる 伸びたつる草も 生い茂る緑の とがった葉っぱさえ まだ 脅威だ というのに 小さいきょ…
誰かが つくった 歌を うたい ぼくは 珈琲の 豆をひく ぼくの 耳に ぼくの 声 ぼくは ぼくの 歌声になり それから ごりごり 豆が すれる 音 になる そして そう遠くない どこかで きこえる ピアノの音 になり やがて 電車が 線路を轢きつつ 走っていく 音に…
むきだしになった 唾液腺が 呪わしく 狂おしく 反応する その あらわで あからさまな 欲望と 渇望は 見世物小屋の どんな見世物よりも 奇異で あわれで 真実で いま 鳴るか いつ 鳴るか 主人がならす ベルの音を かたずを飲んで 待っているのは 牡蠣 のよう…
少し 前まで は いくばくかの 静寂があった たとえば 信号が 変わる 瞬間 「まて」 が 「すすめ」 に変わる 一瞬 それが いまでは シュルレアリスム それは 彼岸 のものか それとも 此岸 のものか あるいは 無意識に のぞき見る 自らの 深淵から 響くものか …
胸に 幾何学模様の ひびが入る ガラスが 割れて 冷たく光る 小さな破片が 体じゅうに 突き刺さる 世界へ向かって 愛を叫ぶのにも すっかり 疲れて しまった 一瞬の 風にしみる 涙も 痛みも 苦しみも きっと 知らぬ間に 胸に 巣喰った 化けものの しわざだ と…
人っ子ひとり いない 街 交わす声も 言葉もない 交差点 風だけが 行ったり 来たり そんなの 好きかい? 灰色の壁が がたがた ふるえて 見てる 鉛色の シャッターが 重々しく ギロチンのように 落ちて あたまが ころがり 天を あおぐ そんなの 好きかい? い…
それは まるで 此岸の おとぎばなし 喧噪 錯綜 迷走 妄想 結局 沈黙 けれども 桜は 彼岸の 花 だから 素知らぬ顔で 花 ひらく 成功 奏功 大成 成就 そんなものを 「サクラ サク」 と いうけれど 桜は 彼岸の 花 だから 死んだように 眠る こと 冬を越え つぼ…
はるか上空で 風が うず巻き うなり声を あげている 空には 雲ひとつない 薄い 白い 爪先のような 昼間の月だけが わたしを 見おろしている 昼にも 月は 出ているのだと さがすときには みつからない 忘れていると 不意を突いて あらわれる それもつかの間 …
夜更けに からすが 鳴く からすは 日が暮れたら おうちに帰って みんなで 休むと きいたのは 子どもの頃 夜明けに からすが 鳴く ほんとうは 何もかも 忘れて 休むことのできる おうちなど ないのかもしれない 朝は 朝焼け 夕焼け 小焼け からすの声を きく…
「じゃあね ママ 明日は きっと いい日 失敗のない いい日」 「そうね 明日は きっと いい日 失敗のない いい日」 ママの声が レモン・イエローの 四角い あかりの中で 言う 階段 降りて ぼくは ネオンサインの 涙(ドロップ)の中へ 映画の中の エキストラ …